八ッ場ダムはいらない!

〜八ッ場ダムを止めよう!首都圏集会〜






 全国自然保護連合など10団体は3月6日、東京都内の国立オリンピック記念青少年センターで「八ッ場ダムを止めよう!首都圏集会」を開きました。八ッ場ダムの問題点などを学び、今後の運動の課題や方向などについて討論しました。




 日 時:2004年3月6日(土)13:30〜16:30
 会 場:東京・国立オリンピック記念青少年センター
 内 容:
  ○講演
    公共事業と八ッ場ダム計画の問題点
      ……公共事業チェック議員の会 佐藤謙一郎氏(衆院議員)
    八ッ場ダム、ストップの可能性をさぐる
      …………………………ノンフィクション作家 久慈 力氏
  ○各地からの報告
    群馬…………………………………………八ッ場ダムを考える会
    東京…………………………………八ッ場ダムを考える小平の会
    千葉…………………………………八ッ場ダムを考える千葉の会
    埼玉………………………八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会
  ○会場からの発言(討論)
 主 催:「八ッ場ダムを止めよう!首都圏集会」実行委員会
   〈参加団体〉
    全国自然保護連合、日本消費者連盟、八ッ場ダムを考える会
    首都圏のダム問題を考える市民と議員の会、自然と文化研究会
    八ッ場ダムを考える小平の会、八ッ場ダムを考える千葉の会
     高圧線問題全国ネットワーク、群馬県自然保護団体連絡協議会
    千葉県自然保護連合
 後 援:公共事業チェック議員の会







 
 【講演】公共事業と八ッ場ダム計画の問題点

公共事業チェック議員の会 佐藤謙一郎氏(衆院議員)




■公共事業チェック議員の会
 公共事業チェック議員の会は国会議員の102人で構成されています。1994年、長良川河口堰の問題で、こんなムダづかいを許してはいけないということでスタートしました。その後、諌早干拓、川辺川ダム、藤前干潟、三番瀬、清津川ダム、沖縄の抱瀬干潟など、とにかく現地に行って直接現地の方々と議論しながら、国会議員として何ができるかを真剣に議論していこうということで、いろいろな形で活動しています。
 ちなみに、議員の会の当初の会長は自民党議員でした。しかし、公共事業の問題で政府・国交省などとやりあっていくうちに、数年を経ずして自民党は脱退しました。今は中村敦夫議員が会長をしています。

■ゴミ減量派と自然環境保全派が手を組んだ藤前干潟保全
 きょうの会場である青少年センターは思い出深い場所です。  それは、以前、ここで藤前干潟保全運動のシンポジウムがあって、そこで初めて自然環境保全派とゴミ問題に取り組むゴミ派とが手をつないだからです。
 私たちは縦割り行政を批判していますが、住民運動・市民連動も縦割りになってはいるのではないかという思いがあります。
 たとえば、私たちもとりくんだ大規模林道問題で、山形県の朝日・小国ルートの中止という成果をあげました。それは、原敬一さんを中心とした地域の方々が全力を尽くして頑張ってこられた成果ですが、その運動と野生生物保護運動とは必ずしも連動していません。野生生物保護運動と大規模林道ネットワークとはほとんど交流がないのです。
 藤前干潟の保全に成功したのは、ひとつは、ゴミ減量派と自然環境保全派とが手を組んだからです。
 名古屋市は、隣の岐阜県多治見市に一般ゴミの廃棄処分をしてきました。しかし、これ以上名古屋のゴミは受け入れない、ということなりました。そこで名古屋市は、藤前干潟を埋め立てて一般廃棄物の処分場にしようと計画したのです。
 そこでは、渡り鳥などを守る運動だけではなく、ゴミ減量派との連携が現実味を帯びてきました。ゴミを減量すれば藤前干潟は保全できるということです。名古屋市では、ゴミ埋立て量を一人当たり129kgから80kgに減らす。つまり、藤前干潟を保全するかわりに市民はもうひとつの課題を押し付けられましたが、それに見事に対応していったのです。

■八ッ場ダムも、節水との連携が必要
 なぜこの話をしたかというと、八ッ場ダム問題も、利水と治水の両方に問題があるからです。利水ということに関していえば、私たち自身が節水をして水の利用を減らしていく、そういう運動としっかり連動していかなければ成功しないのではないかと思います。
 利根川流域6都県の一人一日当たりの水給水量(最大給水量)は、1995年で一日約400リットルです。それ以降はほとんど変っていません。
 福岡市では、1974年と1994年と2回にわたって大変な渇水を経験しました。断水や給水制限が200日にもおよぶというたいへんきびしい水環境の中で、自分たちで節水していくことしかないだろうとなりました。必死に努力した結果、一人当たり290〜300リットル、利根川流域に比べると100リットル減らすことに成功しています。
 私は八ッ場ダムの問題で利水を考えれば、そういう運動と連動していくことによって間口を広げていくことができると考えています。

■過大投資のツケは、住民に押しつけられる
 利根川上流には、八木沢ダムなど6つのダムがあります。その中で、吾妻川水系にはまったくダムはできていません。
 その吾妻川の流域に八ッ場ダムをつくろうという計画が1952年に始まりました。高さ131m、堤頂長336mの重力式コンクリートダム、水圧をダムの重さで抑えるというものです。このダムには当初、2つの目的が示されました。それが治水と利水です。
 私どもは今年に入って二度、市民グループと大きな集会・勉強会を開きました。そのきっかけは八ッ場ダム計画の事業費が大幅にひきあげられたことです。
 昨年の11月20日、事業費が2110億円から4600億円へと、2.18倍に一気に上がりました。公共事業はどこでも、国交省も農水省も、小さく産んで大きく育てようということで、当初はなるべく小さく見積もっておいて、終ってみたら法外な数倍になっています。たとえば長良川では、880億円が1840億円に、山形県月山ダムでは480億円でスタートして1780億円になりました。
 その結果、山形県の鶴岡市では水道料金が28%上がりました。計算からいうと5年で2倍にならないと採算がとれないので、一般会計から繰り入れをしています。おかげで、財政は破綻寸前です。鶴岡の市民グループは、井戸が潰されていくことに激しく抵抗して、いくつかの井戸から取り出した水を「鶴岡の水」として売って抵抗するなど、ダム建設に激しく抵抗しました。
 一番深刻なのは長良川河口堰です。四日市市のコンビナートを対象に、経済発展のための工業用水ということでつくられました。しかし、高度経済成長は終わりました。企業は、「こうした景気だから水はいらない」と言いだしました。そのため、1800億円のうち900億円は国に返さなくてはなりません。それで、つじつま合わせのために、力の弱い、声の小さい一般市民にこれを押し付けています。
 21世紀の最大の課題は、行政サービスを誰が負担するのかということです。結局は、声の小さい住民に負担が押しつけられます。亀山市と鈴鹿市では、水道料金が5倍になり、380円が2060円に上がることになりました。これはとんでもないということで、「水はもう必要としない」と声をあげた人たちが出てきました。まさに今、長良川河口堰は激しい議論の中です。
 これ以上水余りをほっておいていいのか。水が欲しいといっていた地方自治体がいらないということになれば、つじつまをどこあ合わせていくかかが問題になります。

■利息を含めた八ッ場ダムの総事業費は約8800億円
 八ッ場ダムの事業費は、2110億円から4600億円と大きくなりました。それ以外に、水源地域対策特別措置法の事業があります。この法律は、ダムをどんどんつくりやすくするため、反対運動にはお金を突きつけて、こういうお金でどうだ、こういう施設をつくるからどうだというお金を出す根拠になる法律です。
 この特別措置法の事業をあわせると、八ッ場ダムの総事業費は5850億円になります。それも起債(借金)に頼りますので、その利息をあわせると8800億に膨れあがります。このように、八ッ場ダムは、総費用が1兆円を超える可能性のある事業なのです。
 そのうち約半分は地方税で、残りが国税です。一人あたりの利用者負担は、群馬県で1万9000円、東京都で1万1000円です。
 そこで、これは国交省の狡猾なやり方ですが、水道料金が2倍3倍に上がるというと大きな反響があるので、その負担を水道料金に入れるのではなくて、税金にしてしまえということで、水道料金をあまり表に出さないというテクニックが使われています。これには注意が必要です。水道料金だけでなく、全体がどうなっているかをきちんと見ていかねばなりません。
 宮ヶ瀬ダムでは毎年50億円の負担です。住民税の1%値上げで、30万トンの使われない水が残りつづけています。今、本当に水がどこで余っているのかしっかりチェックしないと、結果として公共事業それ自体を目的として税金を使ってムダなダムが造られます。じっさいに、八ッ場ダムの負担金総額は、東京で1270億円、埼玉で1200億円、千葉で760億円、群馬で380億円というふうになっています。

■八ッ場ダムの建設目的に「河川環境改善」が加わった
 どこでもそうですが、国交省は、利水と言って行き詰まれば治水と言いいます。それも行き詰まると、「環境」にすがりつきます。
 「環境」という言葉は、どこででもいいように使われています。今度の八ッ場ダム基本計画で驚いたのは、「河川環境改善の要望が強い」と書いてあることです。
 先に改正された河川法で、「住民参加」と「環境保全」の2つが入りました。それが役所にいいように使われています。河川環境のために維持流量を確保すべきというのです。
 どういうことかというと、国の名勝・天然記念物に指定されているこの吾妻渓谷は、八ッ場ダム建設で一部が水没する。水没してもまだ十分、吾妻渓谷の美しさは自然と人工の調和した素晴らしいものである。しかし、水量が減ると、吾妻渓谷が台無しになるおそれがある。だから、一定の量の水を流さなければならない。これを「維持流量」とし、それを確保するという目的を基本計画に追加する。──そういう言い方をしているのです。
 私たちには信じがたいことですが、視覚的満足度を維持するために毎秒0.2トンの水を流す、そのための基本計画、ということです。

■私たちの疑問や追及に国交省はまったく答えられない
 このように、今度の変更は問題点だらけです。しかし、市民が国交省と議論しても成り立ちません。
 市民の方々は圧倒的に情報が手に入り難い状況におかれています。国交省や農水省などの役所が持っている情報が市民団体ではなかなか取れません。それで、私たちが間に入って、省庁と市民が一緒のテーブルにつけるようにしています。
 しかし、そのテーブルで、市民の方々の質問に役人が絶句して答えられないというケースはあまりありません。役人は、言い訳だけは朝から晩まで考えています。
 この間の議論の中では、絶句することがありました。日本の人口は確実に減っていきます。利根川流域の人口も、2015年くらいをピークにして減少すると考えられています。人口が減れば水の使用量も減ります。八ッ場ダムの完成時期は2000年から2010年に延びたということですが、果たして2010年に完成するかどうかはとても考えられません。なぜなら、事業費は4600億円に上がりました。今、毎年195億円から200億円の予算が出ています。これを2010年に完成させるためには、膨大な予算を一つのダムのために集中しなければなりません。それは、今の仕組みではとてもできません。年195億円をベースに考えれば、あと15年はかかります。それなのに、なぜ2010年にできるのかと質しても、国交省は何も答えられません。
 私たちが入手した資料では、ほかのダムで年間に多くてどのくらい事業費として出すケースがあるかというと、大体200億円台です。例外的に300億円台が2つありました。宮ヶ瀬ダムと奈良県の大滝ダムです。これは300億円を超えています。
 その揚げ句のはて今、ヒビ割れが大問題になっています。三十数戸の人が立ち退き、国交省がその責任を認めました。湛水と貯水によってヒビ割れが起きたのです。周辺はたいへんな不安です。こうしたことを考えると、2010年にできるわけがありません。八ッ場ダムは、完成時期をさらに延ばし、事業費もさらに大きくなるのではないかと追及したところ、国交省はまったく答えられませんでした。

■企業は工業用水を使わずに海に捨てている
 先ほど話したように、一人あたりの給水量は減少しています。だから、市民の知恵で、水の使い方を考えていくことが必要です。
 工業用水は数年前から減っています。しかし、企業は契約して水を買っていますから、使わなくてもそのまま海に捨てています。権利・義務でやむなく買っていて、国民の貴重な水という財産が使われずに捨てられているのです。こういうものを都市用水やその他の用水に転用したらよいと思うのですが、縦割り行政のカベがあってダメです。
 霞ヶ浦のアサザ基金の飯島さんたち市民グループは、霞ヶ浦の水門をあけることによって汽水域をつくり漁業を復活させようとしています。しかし、その水門の真上に農業用水の取水口があって、水門をあけると塩水が入ってくるので絶対反対、ということで水門を開けさせてくれません。
 一方、鹿島コンビナートの工場群は、工業用水をじゃぶじゃぶ流して海に捨てています。その水を農業用水に転用すれば、水門を開けて汽水域がつくれます。ところが、工業用水は経済産業省、農業用水は農水省、浄水場は厚生省ということで、なかなかうまくいきません。

■市民立法のすすめ
 全国で公共事業の反対運動をやって、なかなか成果があがらないのは事実です。議論でいくら役所を論破しても、多勢に無勢で、どんどん工事が進んでいきます。
 そうした状況を変えるためには、工業用水法、水道法、河川法などの改正案を市民の側からつくっていくことが必要ではないかと考えています。それをしないかぎり、なかなか良い方向が見出せないのではないでしょうか。ですから、“市民立法のすすめ”ということを申しあげたいと思います。  そうした運動と皆さん方の運動が連携していければ、と思います。時間がなくなったので、これで終らせていただきます。

(文責・全国自然保護連合事務局)













「八ッ場ダムを止めよう!首都圏集会」は全国自然保護連合、日本消費者連盟、首都圏のダム問題を考える市民と議員の会、八ッ場ダムを考える会など10団体が主催。








主催者を代表してあいさつする全国自然保護連合の青木敬介代表








「公共事業チェック議員の会」の佐藤謙一郎衆議院議員(民主党)








ノンフィクション作家の久慈 力さん








八ッ場ダムを考える会の真下淑江さん








「八ッ場ダムを考える小平の会」の深澤洋子さん








「八ッ場ダムを考える千葉の会」の北沢真理子さん








「八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会」の藤永知子さん









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