■自治体首長の姿勢と問題点─千葉

「環境派」「改革派」は看板倒れ

〜堂本暁子千葉県知事の実像〜

原田吉彦





 ●沼田前知事の後継者のよう



 堂本暁子・千葉県知事は、2001年春の知事選挙で自民党候補などを破って当選した。この無党派知事にたいし、「改革派」「環境派」などと期待が寄せられた。
 しかし、これまでの行動をみていると、「改革派」や「環境派」はまったくの看板倒れである。やっていることは、沼田武・前自民党知事とほとんど変わらない。
 たとえば、就任直後の2001年6月定例県議会では、前沼田県政が進めた大型開発(公共事業)をそのまま推進することを表明した。同年6月21日付けの『毎日新聞』はこう記している。
     「石井文隆議員(自民党ちば21)は、幕張新都心やかずさアカデミアパークなど個別の事業を挙げ、『前沼田県政のプロジェクトを継承するのか、見直すのか』と問いただした。堂本知事は『幕張は国際的な情報発信拠点として、都市づくりを進める必要がある』と述べ、その他の事業も着実に進める方針を示した。これに対し、石井議員は『沼田前知事の後継者のような答弁で安堵感を持った』と発言。議場からは失笑も漏れた」
 このように、堂本知事は、県議会の圧倒的多数を占める自民党と対立を避け続けている。というか、自民党ベッタリの姿勢である。予算編成では同党の要求を100パーセントとりいれている。沼田前知事が県政の最重要課題として押し進めた大規模開発「千葉新産業三角構想」(幕張新都心、かずさアカデミアパーク、成田空港関連開発)はそのまま継続である。これに新たに常磐新線沿線開発を加えて「四角構想」を推進中である。市川市民や環境団体などが強く反対している東京外郭環状道路や首都圏中央連絡自動車道などの大規模高速道路も積極推進の姿勢である。“第二のアクアライン”といわれる東京湾口道路(富津─横須賀間)も同じだ。選挙公約では「バブル的発想の大規模開発は見直す」などと言っていたが、就任後はその公約を破りつづけている。
 こうした堂本知事について、ルポライターの永尾俊彦氏は『週刊金曜日』(2003年4月4日号)掲載の「巨大開発に熱心な『市民派』を警戒せよ」でこう述べている。
     「千葉県政の根本問題である公共事業には抜本的なメスを入れていない。公共事業職場のある職員はこう証言した。『入札はほとんど談合でしょう。設計価格が高く設定されているんで20%程度も儲けが出るから自民党に献金もできる。業者は県会議員と一緒に選挙運動もやってますよ』。三番瀬の埋め立て計画だけは白紙撤回したが、逆にそれを隠れ簑(みの)にするかのように堂本知事は、他の巨大開発はやめようとしない」
     「一体、堂本さんは何のために知事になったのか。もちろん利権のためではないだろう。しかし、公共事業を見直して、利権政治と訣別するつもりもないようだ。とすると、次の田中康夫・長野県知事の指摘にはうなずかざるをえない。『(堂本さんはかつて)長野県の副知事になりたいと言っていたこともある。権力の座にいたい方。早晩、その真実が明らかになる』(2001年5月21日、東京・有楽町の日本外国特派員協会での講演)。堂本知事の就任以来の行ないは、権力の座にいること自体が目的になっているように見える。鈴木宗男議員型の利権政治屋は、今後淘汰されて行くだろう。警戒すべきは「市民派」を装いながら、利権構造を温存する政治家だ」


 ●八ッ場ダムはあくまでも推進



 群馬県長野原町に計画されている八ッ場(やんば)ダムについて国土交通省は今年12月、総事業費を約2110億円から約4600億円に引き上げることを決め、関係自治体の知事に意見照会した。この引き上げに伴い、水利権をもつ千葉県の負担金は183億円から403億円に増加する。しかし、同県の水需要は横ばいであり、同ダムからの受水は必要ない。
 そこで、千葉県議会の共産党、社民・県民連合、市民ネット・無所属市民の会など4会派が、同ダムからの撤退を求める要望書を堂本知事に提出した。要望書は、「負担額のほか関連の事業費や利息を含めると(負担する)総額は727億円」と指摘し、「水源である群馬県の環境を破壊すると同時に、(水を使う)下流の自治体財政も破壊する」と八ッ場ダム事業を批判している。そのうえで、県内の人口の動向と水需要を外部の有識者も入れて調査し、八ッ場ダムの必要性の有無を検討するよう求めている。
 ところが、要望書を受け取った堂本暁子知事は、「千葉は水をもらわないと飲料水や工業用水が確保できない」(『朝日新聞』)とか「千葉県は下流域で水をもらっている立場。ダム建設反対の先頭には立ちにくい。上流から(反対の)動きがあれば」(『毎日新聞』)などと述べ、要望に応じない姿勢を示した。
 このように、ダム計画を次々と中止している長野県の田中康夫知事とは姿勢がまったくちがうのである。


 ●住宅供給公社問題の疑惑解明も及び腰



 堂本知事はまた、千葉県住宅供給公社問題の疑惑解明も及び腰である。この問題は、公社が市原市の山林約75.2ヘクタールを買収する際、倍以上の不動産鑑定結果を採用して70億円高い金額で購入したり、土地がより高値で取り引きされるよう業者に契約前の開発許可取得を指示したというものである。
 知事は、こうした疑惑を解明しないまま、同公社がかかえる911億円もの借金を県民の血税によって肩代わりしようとしている。これについては、新聞も次のように記している。
     「(住宅供給公社問題の)最大のポイントは『政治家など外部の不正な働きかけはあったのか』だったが、確認できなかった。『灰色』決着のまま、県は、多額の借金を抱える公社の支援に乗り出そうとしている」(『朝日新聞』2003年11月20日)


 ●堂本県政を支えているのは自民党



 県庁人事を前沼田知事の側近グループにまかせているため、県政運営も前県政時代とほとんど変わらない。中枢部分を含め幹部の8割以上は自民党とつながった人物が登用されている。
 当然のことながら、こうした堂本知事にたいする自民党の評価はすこぶるいい。たとえば、知事就任1年後、自民党県議会議員会の金子和夫会長は堂本知事をこう評価した。
     「合格点。事前の折衝など、国会議員出身らしく、議会対策は上手だった。(田中康夫知事の)長野県とは違い、議会との関係は良好。党としても是々非々のスタンスで対応したが、主張はほぼ通ったと思う」(『東京新聞』2002年4月5日)
 また、今年3月6日付けの『東京新聞』はこう記している。
     「2001年3月の知事選で、自民党はじめ各党の候補を破って当選した堂本知事の与党は、一人会派の市民ネットなどごく数人だけのはず。ところが、議会運営は極めて“スムーズ”だ。『表向きは“是々非々”だが、討論は賛成。堂本県政を支えているのは自民党だ』。ある自民党県連幹部は、知事との協調路線を誇るかのように語る。議員個人の考えが反映される男女共同参画条例案こそ対立を招いたが、自民党は事実上『与党』だった。県連幹部が言うように、県政課題で激しく争うことはほとんどない」


 ●「私は環境論者ではあるが、環境保護者ではない」



 堂本知事は、環境の分野でも前沼田知事とあまり変わらない姿勢をとりつづけている。就任早々、道路などの公共土木事業を進めている県土木事務所の所長会議で次のように語ったという。
     「公共事業はこれまでと同様にどんどん進めてもらいたい。土木部は“県都一時間構想”(県内のどこからでも1時間以内に千葉市に行けるよう高速道路などを整備するという構想)に力をいれているが、これはたいへんけっこうなことだ。第二湾岸道路や常磐新線沿線開発なども必要な事業だ」
     「私は環境論者ではあるが、環境保護者ではない。これまで環境問題にとりくみ、その勉強もしてきたので、環境には関心をもっている。しかし、かたくなな環境保護の立場はとらない。だから、安心して公共事業の推進にとりくんでもらいたい」
 「環境派」と目されている知事がこのように語ったので、多くの所長が驚いたそうである。


 ●第二湾岸道を通すため三番瀬の一部埋め立てをめざす



 堂本知事が知事選挙で掲げた唯一の具体的公約は、東京湾奥部に残る貴重な干潟・浅瀬「三番瀬」の埋め立て計画白紙撤回だった。
 しかし、堂本知事は就任後、なかなか白紙撤回を表明しなかった。それは、知事が第二湾岸道について積極推進の姿勢を明確にしていたからである。
 第二湾岸道は猫実川河口域(三番瀬の市川側海域)の真ん中を通る構想(計画)になっている。だから、三番瀬の埋め立てを完全に中止すると、第二湾岸道が事実上造れなくなる。
 そのため知事は、「里海の再生」をしきりに強調しながら、猫実川河口域の埋め立てを示唆しつづけた。知事は、「漁協、自治体、市民団体などから要望を頂いたが、すべて同じではなく、ある程度妥協点を探らなくてはいけない」(『東京新聞』)、「地域の全員が満足する案は難しく、ちょっと埋め立てたり削ることはあるかもしれない」(『毎日新聞』)などと述べていた。
 しかし、三番瀬保全団体の運動により、2001年9月、三番瀬埋め立て計画の撤回を正式に表明した。  ところが、堂本知事は埋め立てをあきらめたわけではなかった。そこで、「三番瀬再生計画検討会議」(円卓会議)を発足させ、円卓会議に「三番瀬再生計画」をつくらせることにした。
 円卓会議の委員(24人)選出にあたっては、埋め立て計画に反対してきた地元自然保護団体はわずか1人(大浜清・千葉の干潟を守る会代表)しか選ばなかった。逆に、漁協(4人)、自治会連合会会長(3人)、産業界代表(1人)、人工干潟推進派の市民団体(1人)など、埋め立て推進派や容認派を多数選んだ。
 さらに、小委員会の新規委員選考でも、応募者のうち、猫実川河口域の人工干潟化に反対するとわかっている自然環境保全団体のメンバー13人はすべて落選にした。他方で、人工干潟化を主張しているメンバーは何人も選んだ。(その後、人工干潟を主張している市民団体のメンバーが4人辞任したため、環境保全派が何人か加わった)
 したがって、円卓会議は発足当初から猫実川河口域の人工干潟化が最大の焦点になった。円卓会議の議論のうち、8割以上は猫実川河口域にかかわるものだった。  そして、今年11月13日にまとまった「三番瀬再生計画素案」には、「提言」(結論部分)に、市川塩浜護岸の前面海域に土砂を投入することが盛り込まれた。これは、猫実川河口域の大規模な人工干潟化を目標にしている。土砂を投入しつづけ、広い海域を「干出域」(人工干潟)にするというものである。これは、猫実川河口域をつぶすための布石であり、第二湾岸道を通しやすくするためのものである。


 ●自民党にとって「利用しやすい」知事



 田中康夫・長野県知事は、こうした堂本知事の姿勢をみごとに見抜いている。田中知事は、浅田彰・田中康夫著『憂国呆談リターンズ〜長野が動く、日本が動く』(ダイヤモンド社)の中でこう述べている。
     「三番瀬も、あんなとこを埋め立てたって使えねえんだから、自民党だって反対を押し切って埋め立てる気はない。だけど、湾岸の第二外環道路(第二湾岸道のこと──引用者注)だけは通したい。その点で、堂本ほど利用しやすい人はいないんだとか」
 要するに、自民党にとっては、三番瀬埋め立てそのものはどうでもいいことで、第二湾岸道だけはなんとしてでも通したい。そのとおりに動いている堂本知事は「利用しやすい」ということである。

◇             ◇

 以上が堂本知事の実像である。堂本知事は、全国の環境団体の間で「環境保全や改革を推しすすめている」などと評価されているようだが、それはとんでもない誤解である。

(2003年12月) 





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