ダム建設の是非を賛成派と反対派が討論

〜第二東京弁護士会シンポジウム〜






 「ダムの歴史的功罪及びできるだけダムに頼らない治水はどうしたら実現できるか」と題したシンポジウムが(2010年)7月3日、都内の弁護士会館で開かれました。主催は第二東京弁護士会。参加者は約120人です。
 パネリストは、八ッ場ダムなどの建設に反対している大熊孝氏(新潟大学名誉教授)と嶋津暉之氏(水資源問題全国連絡会共同代表)、そしてダム推進派の竹村公太郎氏(首都大学東京客員教授、財団法人リバーフロント整備センター理事長、元国土交通省河川局長)の3人です。
 ダムの反対派と賛成派が意見を交わすシンポはたいへんめずらしいものです。そういう点で意義深いものだったと思います。
 ただし竹村氏は、焦点となっている八ッ場ダム問題については言及をさけました。氏は、最初にこうクギをさしました。
     「私は前原国交大臣の所管である財団法人(リバーフロント整備センター)の理事長を務めている。したがって、前原大臣がすすめている八ッ場ダムに関する検討や有識者会議の内容など、個別の問題については発言しないという約束で出席した。一般的な治水や利水の考え方についてお答えする」


 「農業用水を確保するためにダム建設が必要」


 竹村氏は、ダム建設が必要な理由として食糧自給をあげました。こんな主張です。
     「温暖化による積雪量減少で、雪解け水がかなり減っている。そういうなかで、農業用水を確保することが日本の食糧自給において大切だ。したがって、ダムは日本の将来にとっても役にたつ」


 「100年後、利根川の渇水は緩和される」


 これに対し、嶋津氏はこう言いました。
     「国交省が立ち上げた研究会は、100年後の水需給を予測している。それによれば、利根川の水需要は、人口減や節水器普及で生活用水は31%まで減少、工業用水は現状維持、農業用水は減少、としている。積雪量の減少などで供給は減るが、需要も大幅に減少するので、結果として利根川の渇水は緩和されると結論づけている」
     「他方で、ダムは堆砂が進む。たとえば八ッ場ダムは、計画では100年後に堆砂で満杯になるとされている。しかし、じっさいは80年後に満杯になるといわれている。つまり、80年後とか100年度は利水の機能がなくなるということだ。そういうダムはつくるべきではない」
 このやりとりは、明らかに嶋津氏の主張が理にかなっています。


 農地面積激減でも、農業水利権は見直しされない


 ところで、竹村氏はふれませんでしたが、農業用水については重要な事実があります。それは、耕作面積が激減しているのに農業用水の水利権はまったく見直しがされていないということです。
 6月16日付け『朝日新聞』の「経済ナビゲーター」は、日本の農地面積についてこう記しています。
    《耕地面積はピークだった1961年の609万ヘクタールから、2009年には461万ヘクタールに減った。耕作放棄や道路・工場用地などへの転用が減少した主な理由だ。》
 ところが、農業用水の河川水利権はまったく見直しがされていないのです。この点については、たとえば田中康夫氏(衆院議員)もこう指摘しています。
    《河川の水利権見直しも急務です。なぜって、一部=私の農業者や漁業者の「慣行水利権」は、驚くなかれ、明治29年から一度も見直されぬままに今日へと至り、水田面積は昭和30年代の半分となった現在も、使われぬ水利権は既得権益として返上されず、そのため、高く不味(まず)い水を飲まされる不要無用なダム建設計画も未だ撤回されずにいるからです。公とは公共改め私益事業では無いのです。》(『日刊ゲンダイ』2008年6月20日号掲載の「田中康夫の奇っ怪ニッポン」)
 農業用水の利用実態や、将来にける生活用水の大幅減少などを考慮すれば、たとえ積雪量が減少しても、少なくとも利水面ではダムの新規建設は必要ありません。
 温暖化や食糧自給を持ち出してダム建設必要論を説くのは、とんでもない誤りだと思います。









ダム建設の必要性をめぐって賛成派と反対派が討論






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