トヨタ自動車テストコース問題

21世紀の巨大開発を考える会 織田重己






 今、愛知県豊田市(旧下山村)と岡崎市(旧額田町)の山の中で超巨大な開発(自然破壊)が行われようとしています。トヨタ自動車(株)の開発拠点となるテストコース、実験棟、研究棟、厚生施設などを作るのが目的です。トヨタ自動車の要望を受け、愛知県企業庁が土地の買収と造成を行い、造成後にトヨタ自動車が買い取る計画です。

 現在、環境影響評価(アセス)の調査中で、早ければ今年度中に準備書が出て、来年度中に着工されます。2008年8月から買収が始まり、半年で90%が契約し、1年後にはほぼ買収が終わっていました。

 予定地の標高は350〜550mで中山間地に当たるところです。環境的には山林が約9割、農耕地(ほとんどが水田)が約1割で、いわゆる里地里山環境です。昔から林業も農業も盛んなところだったので、良い環境が維持されています。また、面積的には豊田市側が8割、岡崎市側が2割です。

 この計画の総面積は660ha、山を崩して谷を埋める造成面積はその内の4割に当たる270haという、とてつもなく巨大な自然破壊です。660haとは東京ディズニーワールド全体(160ha)の4.1倍、東京ドーム141個分、皇居の5.7倍、愛知万博の長久手会場(158ha)の4.2倍、中部国際空港の空港島580ha(空港部分は473ha)よりも広い面積です。
 また、開発されるのは予定地だけでなく、アクセス道や周囲の道路での拡幅やバイパス建設など、インフラの整備でも多大なる面積の環境破壊が必要になります。

 テストコースは6キロの高速周回路(時速200キロで周回できるコース)、直線2キロのコース(時速150キロまで出せる)、4キロの周回路など11コースを建設予定です。この時代に200キロで走るコースが必要なのか?疑問です。

 完成すると研究者だけで4000人が働く予定で、その他の職員を入れると5000人ちかくが働く計画になっています。2010年8月1日現在の下山地区の人口が5277人ですから、昼間人口は倍になるわけです。雇用の場ができることは良いことですが、予定地周辺の下山地区や額田地区で林業や農業に頼って暮らしていた人が一気にいなくなり、人工林を含めた里地里山環境の荒廃にはさらに拍車のかかることが予想されます。

 2007年6月27日、読売新聞にこの問題が初めて新聞記事として書かれました。内容は県企業庁からの発言で「造成予定地でオオタカの営巣など希少野生生物の生息が確認された場合でも開発は中断しない。」という内容でした。目を疑いました。愛知万博の時にはあれほど騒がれたのに、そんなことはお構いなしに開発をするというのです。

 翌月の7月6日からは環境影響評価方法書の縦覧が始まり、知れば知るほどこの無茶な開発を何とかしなくては、と思い「21世紀の巨大開発を考える会」を立ち上げました。

 今年、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。COP10をただの国際会議としか思っていなかったのでしょう。里山イニシアチブを提唱するCOP10を開催する愛知県が里山の大規模破壊をする矛盾はどう考えても理解できません。行政的には縦割りなので、今でもどちらも別の部署のことと思っているようです。

 開発予定地内では国の絶滅危惧TB類(EN)のミゾゴイが2ペアー、絶滅危惧U類(VU)のサシバが3ペアー、準絶滅危惧(NT)のハチクマが1ペアー繁殖しています。その他、絶滅危惧TB類(EN)のホトケドジョウはたくさん、絶滅危惧U類(VU)のサンショウクイは数ペアー繁殖しています。

 地元ではトヨタ関連の関係者ばかりで反対する人がいないことは、この開発の大きな特徴です。前にも書いたように、660haの全てが民有地であったのも関わらず、買収は大きなトラブルもなく、1年ほどでほぼ終わってしまいました。

 この計画は約20年ほど前にも計画されましたが、この時は地元の大反対にあい頓挫しました。今回は疲弊する過疎の村で、林業も農業も携わる人は高齢化し、自分の子供たちは作業を引き継がないので、この機会に手放した人がほとんどです。契約した地主にはすでに7割のお金が支払われています。

 造成面積は2008年9月に410haから280haへ、2009年12月には270haへと縮小しました。この事業は回避できないとして低減を図ったのですが、それでも270haもの自然を破壊します。よほどの代償措置が必要になりますが、660から270を引いた残りの390haのみで人工林の整備や水田の維持をするようです。

 県企業庁は開発(=自然破壊)が仕事なので、アセスメントに対しては無頓着です。従来型の開発で実施するつもりのようですが、今の時代に適当なアワスメントだけで済ますのは、日本の経済を支えているトヨタ自動車にとって不幸な結果を招くことは簡単に予想されます。日本ではトヨタ自動車が相手なだけに、マスコミはあまり取り上げたがりません。

 この現実を広く知ってもらうためにホームページを作りました。詳しくはホームページをご覧ください。

(2010年9月)

21世紀の巨大開発  http://bio-diversity.info/










水田と山が広がる予定地。
周囲の山を削り、水田を埋めて造成します。




昨年、予定地で確認されたミゾゴイの巣。
雛が3羽巣立ちました。




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