官邸前の意思表示


桝井道典




 去年の4月以来、「原発は要らない」と集会やパレードに出かけて意思表示をしています。個々の「日常からの身の丈意思表示」が大事・原則と思い、一人で出かけることが多いです。
 電話やメールで連絡をとり、現場で友人と合流することもありますが、それはそれ、「ネバナラヌ義務感」では長続きしません。

 9月の金曜日、都内の立ち寄り先からの帰りに官邸前に向かいました。コンビニで買ったペットボトル水4本8リットルを経産省前のテントへ差し入れ、官邸への坂を上り始めたのはまだ午後6時前でした。
 たぶん官庁から帰宅する人たち、未だ仕事の途中か急ぎ足の人たちの中に三々五々、明らかにそれと分かる「原発いらない」人たちのいる風景が、いつの間にか「官庁街の日常」になっていることに僕は少し感動しました。

 明日に続くはずの日常が突然に分断された震災は、僕らと国の関係をあからさまにしました。僕らの代弁者、国民の声を大事にする、国民を守ってくれるはずの政治家やお役人が実はそうではなかった、という疑念です。ならば声を出そう、という金曜日の官邸前抗議行動は日常の取り戻し、当たり前のこと、それらが日常の風景になっているという「感動」でした。

 思い思いのゼッケンをつけた人、たたみ込んだ幟(のぼり)や横断幕を抱えて歩く人、お母さんやお父さんと一緒の子どもたち、勤め帰りかハイヒールの若い女性たち、実に多様です。機動隊の装甲車は車道にびっしり停まっているけれど、警備のお巡りさんは日常の服装です。震災で家族を亡くし、仮設住宅に避難している身内のいるお巡りさんもいるかもしれない、私はこう考える、あなたは? という問いかけもある金曜日の官邸前なのだと思います。

 官邸近くの歩道で人数の足りないグループの横断幕を持ってシュプレヒコール。合い間に聞こえる会話は「用事があるからそろそろ帰るわ、お先にね、じゃ又ね」、これが身の丈なのだと思う。

 立ちっぱなしの2時間はきつく、30分くらい歩道脇の石垣にもたれていました。スペースを空けてくれたのはおとなしそうな人で、一人で来ているよう。背筋を伸ばして声を合わせていました。静かな怒りが伝わってきて、僕は又少し感動したのです。

 読んだ本や体験談や自分の経験から、何事も波があること、人間にも人の世にも、余り考えない善意や大義名分で動くことがあることを僕は知っています。身の回りに答えはある、悪者を仕立てて考えるのではなく、なんで原発は要らないと考えるのか、何で何で、という自分への問いを繰り返すことで僕が深化されていくのだと思います。

(2012年9月)








経済産業省前のテント村=2012年9月7日



官邸前で原発再稼働反対を訴える人々=2012年9月7日



桝井道典さん=2012年9月7日、首相官邸前







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