歩き・見て・考える

〜多摩川の自然を守る住民運動〜


多摩川の自然を守る会 代表 柴田隆行





 多摩川の自然を守る会は1970年2月8日に結成された。学者や自然愛好家ではなく、ふつうの市民が自然の保護を訴えなければならない状況が身近に起きていた。それ以来43年間活動を続けてきたが、多摩川が良くなったという実感はまったくない。自然保護などという運動は早くやめたいが、やめようと思う好条件がいまだに見つからない。

 多摩川に関わる市民団体は数多くがあるが、その多くが自然愛好団体つまり自然利用団体であって、その自然を人為的破壊から守ろうという団体は少ない。かつて、1970年代、「自然保護」と言うと、「人間が自然を保護するなどおこがましい。馬鹿を言うな。」とよく言われたが、自然を破壊して生きる生物は人間をおいて他にない以上、人間が人間による自然破壊を守らなければ誰が自然を守ると言うのだろうか。

 冒頭で、私たちの会は学者や自然愛好家ではなくふつうの市民の集まりだと書いた。市民・住民は自然を身体で知っているが、自然についての知識はないに等しい。なので、現地で学習会を開いて少しずつ多摩川の自然について調べてきた。そもそも世の中に「自然」なるものは存在しない。あるのは、植物や昆虫や魚類……。否、植物なるものも存在しない。あるのは、目の前のあれやこれだ。そのあれやこれの名前を知ることからまず始めなければならない。

 こうして少しずつ多摩川の自然や河川環境やその変化を調べ理解していった。そうして43年が経ったが、この間に、河川管理者は何十人と代わり、流域自治体の職員や長、議員も数えきれないほど代わった。多摩川の自然を研究対象にする学者や自然愛好家は、自分が目を向ける対象がいなくなると多摩川を去って行く。こうして、単純に引っ越したりすることのできない私たち市民・住民がいつの間にか多摩川の自然を最も良く知っている人間となった。

 今年は多摩川の河原植物の調査を行った。カワラノギク、カワラニガナ、カワラヨモギ、カワラハハコ、カワラサイコ、ヒロハカワラサイコ、カワラナデシコ、カワラケツメイの8種類の植物が多摩川のどこにどれだけ生えているかを徹底的に調べた。学者と違って市民は植物生態学その他専門的知識も技術もないから、ただ単純に多摩川を隈無く歩き、群落がある所ではひたすら目でその数をかぞえる。上記植物を識別できれば、誰にでもできる調査だが、多摩川全域でこうした調査をかつて誰かがやったという記録を見たことがない。

 本誌(『全国自然通信』第118号)で小林賢一郎さんの訃報を読んだ。小林さんとは、南アルプス・スーパー林道反対運動で知り合い、一緒に北沢峠近くの沢にテントを張って座り込みをしたり、奥多摩の三頭山山腹にある東京都の自然破壊施設へ抗議に行ったりした。彼は、権力に対して臆せず闘ったが、とても人情味のある人だった。小林さんは「自然観察会」なるものを嫌っていたが、自然保護運動を行うにあたって自然観察は絶対に必要であることを私たちは実践を以て示した。その結果、「そういう例もある」と小林さんに認めていただき、それが私にとって何よりも嬉しかった。氏のご冥福を祈りたい。

(2013年12月)








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