蒲生干潟の現状

〜震災後の回復過程と問題点〜〜


蒲生を守る会 熊谷佳二




 東日本大震災によって、宮城県海岸域の自然は大きな被害を受けた。仙台市宮城野区にある蒲生干潟も例にもれず、大津波の直撃を受け、壊滅的な打撃を被った。しかし、砂浜や干潟の地形は驚くほどの速さで復活し、生命の息吹きが感じられなかった沈黙の干潟に、生きもの達は徐々に戻り始め、生態系は着実に回復しつつある。


■震災から現在までの過程

 1970年4月から当地の自然保護活動を行ってきた蒲生を守る会は、震災1ヶ月後から鳥類を中心とした生物調査を再開し、干潟の被害状況と回復過程を毎月、観察・記録してきた。例えば、鳥類の種類数は、震災直後の4月には震災前同月(10年間の平均値)の55%に減少したが、その後徐々に増え、今年の4月には98%にまで回復した。個体数も同じく4月の比較では、直後は30%に激減したが、今年は71%と増加した。しかし、シギチドリ類やガンカモ類、カモメ類などの水鳥の渡来状況は順調だが、陸鳥は個体数、種類数とも改善しておらず、今年4月の渡来数は震災前の約3分の1に過ぎない。海浜植物、ヨシ原、松林などの植生の回復が進んでいないことが原因と考えられる。

 次の図は、これまでの調査結果を@地形や環境の変化(上段)、A生物の変化(下段)の2つに絞って、時系列的にまとめたものである。このように、大津波によるかく乱の後、河口閉塞(淡水化)、新河口形成(海水化)、台風の高波など、数回のかく乱を受けながらも、干潟生態系は確実によみがえりつつある。








■蒲生を守る会の活動

 上記のように、震災前から40年以上継続して行ってきた月例鳥類調査を、震災後は底生動物や植物、地形、塩分濃度などの変化も含めた形で行っている。また、今年度は自然観察会を2回開催した。観察会は「SAVE JAPAN プロジェクト」の支援を受けて実施したものである。

 8月4日の震災後初めての観察会では、100名余りの参加者と干潟の生き物調査と観察を行い、震災後初めて観察された貝類2種を始め、希少種を含む23種の底生動物を確認することができた。真夏の干潟に久しぶりに子供達の歓声が響き、親子で直接生き物に触れ合いながら、干潟の重要性を体感する家族の姿が多数あった。また9月29日には、三十数名の参加者と蒲生海岸から南へ貸切バスで移動し、被災した海岸の自然や植生の回復状況と災害復旧工事の影響を視察した。被災を免れ、再生しつつある海岸や湿地の貴重な植物や動物の存在に殆ど配慮することなしに、急速に進められている無謀な公共工事の現状を目の当たりにし、その問題点を参加者と共有し、考えることができた。

 このままでは、宮城県の海岸線の大半は巨大防潮堤によって、後背地から遮断され、生態系も分断されてしまうだろう。さらに内陸には堤防に並行する場所で、林野庁が長さ40kmを越える海岸防災林の復旧工事を進めている。こちらも既存の植生に配慮することなく、一律2〜3mの高さに盛り土して行われる。震災の大打撃からよみがえりつつある生態系が、再び大規模工事でとどめをさされようとしている。

 高度成長期に全国各地で行われた公共工事による自然破壊が、より急速に、より強力に進められている。私たちは、これらの現状と問題点を訴えるべく、11月3日のシンポジウム(仙台湾沿岸での災害復旧工事を考える:仙台湾の水鳥を守る会主催)で意見・パネル発表を行った。現在、その報告集を作成中であり、まもなく発行される予定である。

 国指定鳥獣保護区特別保護地区および宮城県環境保全地域に指定され、その自然の豊かさと貴重さが認知されているはずの蒲生干潟にも、防潮堤建設工事の着工が間近に迫っている。干潟の背後に広がる湿地や草原、池は、仙台市が進める都市計画・区画整理事業案では、埋め立てられ、大規模事業所用地となる予定である。幾たびのかく乱をのり越え、よみがえりつつある干潟生態系は、その存続が絶たれるほどの大きな危機に直面している。

 大自然のかく乱を受けても、元々不安定な環境の下に成立している干潟や湿地の生態系は、意外に早く回復する力を持っている。しかし、大規模工事などの人為的かく乱に対する耐性は決して強いものではない。未来に禍根を残さないように、今後も現地調査を続け、蒲生干潟の重要性とすばらしさを多くの市民に訴え、無謀な復旧工事による自然破壊を少しでも緩和し、生態系の存続をはかる活動を行っていく所存である。

(2013年12月)






蒲生を守る会 熊谷佳二自然観察会の一コマ=2013年8月4日



準絶滅危惧種「フトヘナタリ」



準絶滅危惧種「ハママツナ」の群落。防潮堤建設予定地となっている



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