自然と景観を壊す巨大風車群

〜“風力発電導入量全国1位”秋田県の海岸〜







 秋田県の巨大風車群を見学した。びっくり仰天である。巨大な風車が日本海沿いにずらりと並んでいる。防砂林の役割を果たしてきた海岸林(松原)がいたるところで伐採されている。先人たちが営々とはぐくんできた歴史的景観や文化遺産がズタズタに破壊されている。
(中山敏則)


すさまじい自然破壊

 秋田県の風力発電導入量は昨年2月時点で約65万kWだ。全国1位である。大型風車が296基も設置されている。そのほとんどが海岸沿いである。海岸林や砂浜は格安で使えるからだ。秋田県の沿岸部は年間を通じて強い偏西風が吹きつける。だから風力発電に向いているという。

 能代市の海岸には日本最大級の海岸林が広がる。「風の松原」だ。面積は760ha。地域の先人たちが苦労して築いてきた松林である。日本の海岸防砂林のお手本とされてきた。「日本の自然100選」にも選ばれた。「先人の思いが込められた能代の宝」とされている(朝日新聞社編『日本の自然100選』朝日文庫)。その松原も次々と伐採されている。すさまじい自然破壊である。

 小田隆則さん(故人)は、千葉県森林研究センターの主任研究員として海岸林の研究に長く従事された。小田さんは自著『海岸林をつくった人々』(北斗出版)のなかで、「海岸林は防災林であると同時に、いまや文化遺産でもある」と記し、海岸林の伐採や転用に警鐘を鳴らしている。

 大型風車は低周波騒音による住民の健康被害も問題になっている。秋田県の巨大風車群については「景観を損なう」との批判もある。松原が伐採されたため、農業用ビニールハウスが強風で損壊する被害も発生している。だが、歴史的景観や自然環境や住民の健康がどうなろうと知ったことではない──。そんな感じで巨大風車の建設がつづいている。


千葉市の幕張海岸では風車建設を断念

 かつて、千葉市の幕張海岸に大型風車を何基か建設するという話がもちあがった。幕張海岸は強い風が吹くからだ。
 千葉県自然保護連合の事務局長として私はこう話した。
    「幕張の海岸に大型風車を建設することは問題が多い。@景観を破壊する、A東京湾に飛来する野鳥に影響をおよぼす、B低周波騒音が周辺住民に健康被害をもたらす、などだ。計画が具体化すれば、私たちは周辺住民と共同して反対運動を起こす」
 幕張の海岸に大型風車を建設する話はそれっきりになった。ところが、秋田の海岸ではいたるところで巨大風車が野放図に建設されている。いったいどうなっているのかと思う。正気の沙汰とは思えない。


風力発電の効果に疑問

 風力発電は、効果も疑問視されている。天候に左右されるからだ。風が弱すぎるとダメ、強すぎてもダメと、お天気次第である。台風が襲来すると風力発電に頼る地域は停電になる。これは太陽光発電も同じだ。民主党や立憲民主党の衆議院議員をしていた川内博史さんは指摘する。
    〈太陽光や風力は、不安定な自然が相手で、太陽光はお天気次第、風力も風頼みなので、1年365日、1日24時間の一定の安定した発電と電力供給はできず、ベース電源にはなりません。〉(川内博史ほか『米国が隠す日本の真実』詩想社)
 同感だ。ヨーロッパと日本では状況がかなり違う。ヨーロッパは台風がめったに襲来しない。しかも陸続きのヨーロッパ各国は送電線で結ばれ、電力を融通しあっている。非常時は近隣国の電力に頼ることができる。日本にはそのような広域的な電力システムがない。だから、日本では風力や太陽光はベース電源にならない。台風の襲来で広域停電が発生すれば、工場などは大損害を受ける。

 設備利用率(フル稼働した場合の発電量に対する実際の発電量の割合)は、陸上風力発電が20%、太陽光発電は13%とされている。


大量撤去や放置の懸念も

 風力発電は大量撤去の動きも問題になっている。約20年とされる寿命を一斉に迎えはじめているからだ。高額な費用がネックとなり、建て替え件数はわずかだ。撤去が相次いでいるという(『中日新聞』2019年12月23日)。

 太陽光発電も同じである。太陽光パネルの多くは2030年代に寿命を迎える。ピークとなる2036年ごろには年間17万〜28万トンの使用済みパネルが出ると見込まれている(『朝日新聞』2022年2月16日)。パネルは鉛などの有害物質を含む。水の浸入を防ぐ設計上、分解にも手間がかかる。資源エネルギー庁によると、廃棄費用を積み立てていない事業者は2019年時点で全体の8割にのぼる。したがってパネルが放置される懸念もある。風力発電や太陽光発電はこうした問題もはらんでいる。


熱エネルギーなどの活用を

 だからといって原発に頼るのは誤りだ。それは福島第一原発事故が示している。どうすればいいのか。

 たとえば製鉄所の発電能力はすごい。日本製鉄の君津製鉄所だけで115万kWと、原発1基分に相当する発電量がある(『週刊東洋経済』2012年6月9日号)。秋田県全体の風力発電導入量をはるかに上回る。しかし法制度や送電線利用がネックとなっていて、製鉄所が生みだす電力を一般家庭などに供給するのはむずかしい。

 ごみ焼却場の発電能力も大きい。木更津市は今年2月、小中学校などの使用電力を廃棄物処理の余熱で発電する電力に切り替えた。同市にあるゴミ焼却場「かずさクリーンシステム」は、余熱を利用し、蒸気タービンで24時間発電している。年間発電量は、4人家族で約7000世帯分の年間消費電力に相当する(『朝日新聞』千葉版、2022年2月9日)。

 船橋市も今月から下水汚泥消化ガス発電事業をはじめた。下水処理過程で発生する汚泥消化ガスをバイオマス発電の燃料として活用するものだ。年間売電量は約495万kWを見込んでいる。ガスの売却などで年に1億円の収益を想定する。発電された電力は船橋市内の商業施設などで消費される。担当者は「市のエネルギー自給率の向上とエネルギーの地産地消に貢献できる」としている(『朝日新聞』千葉版、2022年4月21日)。

 産業界や自治体の一部は、こうしたコージェネレーション(熱電併給)や自家発電の導入に力を入れている。福島原発事故で懲りたためだ。このようなとりくみを全国各地で推進すべきである。そうすれば危険きわまりない原発は必要ない。自然や景観を破壊するメガソーラー(大規模太陽光発電)や大型風力発電も必要ない。そのためには法制度の改正や送電線の開放も必要だ。
(2022年4月。写真は4月17、18日に撮影)






秋田県の海岸沿いは巨大風車だらけ=秋田市で撮影




秋田県三種町の釜谷浜海水浴場に並ぶ巨大風車。地面から羽根の頂点までの
高さが125mで30階建てのビルに相当するものもある。浜辺の景観は台無しだ




潟上市の出戸浜海水浴場に並ぶ巨大風車。秋田県の海岸ではこんな光景があちこちで見られる




秋田港の浅瀬で基礎工事が完了した洋上風力発電機。
秋田港で13基、能代港で20基の洋上風力発電が計画されている



地域の先人たちが守り育ててきた「風の松原」も伐採=能代市



風の松原の近くにある景林神社。江戸時代に松原の育成に尽力した賀藤景林を神様として
敬い、能代の人たちが建立したものだ。その松原も次々と伐採されつつある=能代市







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