■「自然と環境を守る全国交流会」参加団体


ナチュラリスト敦賀 緑と水の会









★活動の概要

 当会は、無許可で増設を繰り返し、全国最大規模、119万立方メートルの違法搬入に発展した敦賀市の民間廃棄物最終処分場の増設問題を契機に1990年発足した。当時、敦賀市民が排出する10倍量のごみが毎年、全国から持ち込まれている処分場があり、さらに増設の申請がなされるということを知り、情報の収集と学習会を重ね、阻止のために会が設立された。
 私たちは、この処分場が地下水に依存している敦賀市民の上水道の取水地上流部に位置していることから懸念を表明し、運動を展開してきたが、業者の処分場設置の際、福井県が開設手続きをミス、その後は違法搬入の黙認状態が続き許可量の13倍に達した。
 2000年に厚生省(当時)の指示で県が搬入停止に動くまで、茨城県から岡山県までの18府県の自治体・一部事務組合63団体から一般廃棄物も持ち込まれていた。事業者倒産の現在は、福井県が行政代執行として102億円をかけて漏出汚水防止の囲い込み工事を行っているが効果のほどは疑わしい。また、排出団体への工事費用負担についての話し合いも難航しているのが現状だ。
 会の趣旨は、私たちを取り巻く環境全般を視野に活動、次世代へよりよき環境を継承することが目的で、現在は、中池見湿地の保全、ラムサール条約登録を目指して活動を展開している。


★現在の主な取り組み

 中池見(なかいけみ)湿地は、廃棄物処分場と同じ地域にあり、敦賀市が工業団地構想の候補地とした所で、1992年に大阪ガスが液化天然ガス(LNG)備蓄基地建設を発表。環境アセスメント、地盤調査などを行い、土地買収まで済ませたが、2002年に計画を中止、造成した観察施設や買収した土地82haなど全てを敦賀市に寄付して撤退した。私たちは、会発足時から保全すべき所として、自然観察会や各種調査を行いながら啓発活動を行ってきた。
 中池見湿地は、昭和30年代までは全域田んぼで約25ha。周囲を低山に囲まれた盆地状の湿地で、袋状埋積谷と呼ばれる特徴的な地形をしている。江戸時代までは大杉が生える深い沼地だったとのことで、元禄期の新田開発には大変苦労したと地元史料にある。現在もその当時に開削された素堀の排水路、江(地元の呼び方)が5本残っており、また、大杉の切株(地元では「根木:ねき」と呼ぶ)が田んぼの中いたる所に見られ、往時を偲ばせる様子が大きな破壊、改変もなく存在しているのが貴重である。
 開発計画による環境アセスメント調査と三次にわたる総合学術調査で中池見の希少性が判明した。その一つは、深さ80mのすり鉢状の地形の中に存在する40mにもおよぶ泥炭層だ。層序正しく堆積している泥炭とその間に挟まっている火山灰から年代を知ることができる。また各層に含まれる植物の実や花粉から樹種と気候が推測され、約13万年分の気候変動史を読み解くことができる。
このことから世界の注目を集め、国際的な団体や関係者からラムサール条約に登録をと推奨されているが、残念ながら国内でその重要性が認識されないのが現状だ。
 二点目は、豊かな生物相−生物の多様性だ。一般的に泥炭地の生物相は貧弱だと言われる中、ここ中池見には3000種を超える動植物が生活している。そのような場所が市街地に隣接してあり、市民といわず研究者や子ども達に多くの興味とふれあいを提供してくれる場でもある。
 この間、市民団体が次々に発足。緑と水の会を中心に連携して保存活動を強化してきた。そして、1996年には、これら団体で中池見湿地トラストを設立し、全国へ呼びかけてトラスト運動を展開した。2002年に開発が中止となり中池見は残ったというものの課題や問題点は山積している。行政の低い価値観、保全・管理方策、体制の不備に加え、湿地西側に敷設されている国道8号バイパスの影響など、解決しなければならないことが多い。特に国道バイパスが特殊な地形を軽視しての工法から路面沈下が著しく、改修工事にエポコラム工法なるものを取り入れたいといまだに画策していることだ。
 私たちは、地中での凝固剤等の拡散挙動が不明な工法でなく、貴重な泥炭層に負荷ををかけない橋梁化を求めている。また、バイバスからの外来植物の侵入にも頭を悩ませている。
 2009年、この中池見での活動が評価され、日本ユネスコ協会連盟の第1回「プロジェクト未来遺産」に登録されたが、20年を超える保護活動を経て残った、この希少な湿地を未来へいい形で継承するためにはラムサール条約に登録し、啓発と人智の結集が不可欠な現状である。
(2011年9月)




厚さ約12mm、延べ14万1000m2のシートで覆われた廃棄物
最終処分場の現在の姿=2011年5月29日付福井新聞から



中池見湿地は、広さ約25ha、湿地面標高約46m、外周約4km。周りを里山
に囲まれた中池見湿地はかつて全域田んぼだったが、現在は湿原状態。
手前の池は、バイパス工事の際、投入した残土が沈下してしまった所。
左端を南北に走るのが国道8号敦賀バイパス。沈下が続いているのは、
手前下の部分(下写真参照)。地下にある潜在地形の谷に当たる位置。



中池見湿地



中池見湿地の潜在地形を軽視した結果、路面沈下を続ける国道8号
敦賀バイパス=樫曲トンネル北側出口付近。ガードレールが縦に
波打つ。「沈下個所約150mの改修は橋梁化で」と要望している。






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