リニア計画の問題点が鮮明に

〜シンポ「リニア中央新幹線は必要か」〜






 「リニア中央新幹線は必要か?」と題したシンポジウムが3月28日、都内で開かれました。JR東海が東京・大阪間で計画している同新幹線の必要性を検証するもので、主催は「リニア・市民ネット」です。全国自然保護連合も賛同団体に加わりました。参加者は200人です。


■「公共事業基本法」の制定を

 最初に、五十嵐敬喜さん(法政大学教授、弁護士)が「公共事業の転換期を迎えて」と題して基調講演をおこないました。
 五十嵐さんは、「民主党政権は、発足当初は高い支持率を得ていたが、最近は急降下している。自民党政権との違いが目立つのは国交省の姿勢だ。前原国交相は八ッ場ダム中止の方針を貫徹している。しかし、これもかなりあやしい状況になっている。このままいくと、政権交代はいったい何だったのか、と問われる事態になるかもしれない」などと述べ、公共事業をめぐる現状をくわしく話しました。
 また、リニアも対象にした「公共事業基本法」の制定が求められているとし、そこには、(1)計画されてから5年以内に着工しないものや、10年たっても完成しないものは強制的に中止する。(2)費用対効果や生態系・環境、景観、コミュニティなども評価の対象にする。(3)代替案を検討する。(4)事業によって損害を受ける者に対して十分の補償をする──などを盛り込むべきと提案しました。


■リニアは不必要

 つづいてパネル討論です。6人のパネリストがリニア中央新幹線がかかえる問題をさまざまな角度から指摘しました。

◇橋山禮治郎さん(明星大学教授、公共計画)
 「リニアの実現可能性の決定要因には、技術、空間、工期、工事費、資金調達、環境、計画主体の事業遂行能力などがあるが、現段階ではいずれも多くの不確実性があり、確実な計画進捗は見込めない」「1県1駅では乗る人も限られ、県内でも他の地域の人には何の影響もない」とし、リニアの利便性や経済効果に疑問を示しました。
 そして、こう結論づけました。
 「リニアはつくる価値がない。その必要もないし、国民が望んでいるものでもない。計画主体にとっても多くの困難に直面し、つくれば失敗する可能性が大きい。したがって、早急に計画を断念するか、代替案へ変更するのが賢明である」

◇鈴木富雄さん(JR東海労働組合中央執行委員長)
 リニア中央新幹線に対するJR東海労働組合の基本的立場は、(1)あらかじめ反対ではなく、計画の内容を検証する、(2)第二の「国鉄」「日本航空(JAL)にしてはならない、(3)これ以上の環境破壊に反対する──の3点であることを述べました。そして、(1)これまでの協議では、経営側が組合の質問に誠実に応えていない、(2)国家的な大事業を多大な債務をかかえる一企業が建設・運営することは無謀である、(3)リニア構想実現のために賃金抑制や労務管理強化が進んでいて、安全も危惧される──とし、そういう状況のもとでは計画に反対である、と発言しました。

◇荻野晃也さん(電磁波環境研究所所長)
 「リニアは超電導リニアモーターカーと呼ばれるように、とてつもない量の電磁波を発生させる。リニア線路のすぐ近くの住民は、強い被曝を夜も昼も浴び続けることになり、人体への影響が懸念される」と話しました。また、世界では最近、電磁波による「精子への悪影響」を示す研究論文が急増しているそうです。電磁波過敏症の患者も世界中で増えています。また、心臓圧迫、ストレス、精神不安、頭痛、睡眠障害などに悩む人も増えているそうです。そして、危険性が確定していない時は実施しないという予防原則の思想から「リニアは時期尚早」と強調しました。

◇松島信幸さん(伊那谷自然友の会会員、専門は地質学)
 南アルプスの地中にはひずみが集中しているとし、「掘削したトンネルがつぶれやすい」「日本でいちばん土木工事がやりにくい」「トンネルからの出水が周辺の水枯れにつながる可能性もある」などと指摘しました。

◇サイモン・ピゴットさん(長野県大鹿村の自治会長、翻訳家)
 住民には何の説明もなしに、静かな地域で突然、リニアのボーリング工事がはじまったそうです。住民は昼も夜も工事の音に悩まされ、2世帯が転出したとのことです。
 南アルプスの自然破壊は、都市と地方の格差拡大などをあげ、高速鉄道の必要性に疑問を呈しました。また、超音速旅客機コンコルドについて、「夢の飛行機と言われたが、環境破壊や騒音、コストの高さ、経済性がないとの理由で運航中止になった」とし、リニア計画の必要性にかんする議論をより広く行うよう訴えました。

◇野沢今朝幸さん(山梨県笛吹市市議会議員)
 山梨では、リニアをバラ色に描く情報が一方的に流されたり、不景気で仕事がほしいということで、リニアを歓迎するムードが意図的につくられている。そして、財政問題などの問題点を感じていても、それを声に出しにくい状況がある、とのことです。


■「中止させなければならない」

 参加者からもたくさんの質問がだされ、パネリストが回答しました。
 最後に、参加者全員で「拙速な事業の推進に歯止めをかけなければならない」とする集会宣言を採択しました。

 たいへん中身の濃いシンポでした。参加者からは、「リニア中央新幹線が計画されていることは知っていたが、問題だらけであることをはじめて知った」「採算がとれないということがはっきりした。また環境破壊もすごい。中止させなければならないと思う」などという声が寄せられました。


集会宣言



 2007年12月、JR東海は突如、リニア中央新幹線を単独事業として建設する意向を明らかにしました。そしてそれ以降、沿線自治体をはじめとする関係団体や住民の一部は、何かバラ色の未来が約束されたような錯覚に陥り、リニアをめぐる冷静な議論は棚上げにされ続けてきました。そこでは四国架橋や東京湾アクアラインなどをはじめとするこれまで大規模開発事業がことごとく失敗に帰したことなど全く顧みられることはありませんでした。
 本日、「リニア・市民ネット」と賛同団体は多くの市民とともにここに集い、おそらくはじめてのリニアに関する腰を据えた本格的な議論を行うことができました。そしてその結果、私たちはこれまで十分に議論もされず、また社会の中で共有されることもなかったリニアのさまざまな負の側面を明らかにすることができたと思います。
 それはたとえば、5兆1千億円(東京〜名古屋間)と言う根拠不明の予算の問題であり、また人口や利用客の減少による採算の問題であります。それらはいずれ、負債の形をとって国民の側に投げ返されるのではないでしょうか。あるいは電磁波による人体への影響という健康上の問題も、原発数基分が必要といわれる消費電力の問題も、また巷間(こうかん)活性化するといわれている地域振興の問題も、すべて未解決で疑問符がつくものであることが理解されました。
 そしてさらに、その美しい山容をもって知られる南アルプスをトンネルで貫くという重大事も指弾されなければなりません。この愚挙とも言うべき大事業は、結果として南アルプスの山霊を泣かしめ、また怒らしめ、いずれ私たちはその報復を受けねばならないでしょう。
 それが地すべり地のトンネル崩壊という形になって表われるか、あるいは私たちには予測もつかない何か技術上のトラブルとなって表われるか、それは神のみぞ知ることです。
 そして一方で南アルプスを世界自然遺産にと願う人たちがいる中で、一方でトンネル穴を開けようという人たちもいる、この矛盾した状況に対しても、私たちは開発か自然かという社会全体の問題として議論をつめていかなければならないと思います。
 最後に、このリニア中央新幹線計画を遂行しようとするJR東海が、諸費用や環境などすべての面にわたって情報をいっさい公開しないという点も厳しく糾弾されなければなりません。
 鉄道の公益性という点に鑑みても、その情報は社会全体で共有されるべきであり、そこから導き出されるさまざまな問題は、国民的議論の中で方向性が決められていかねばならないと考えます。
 私たちは本日のこの議論をもとに、リニアが抱える本質的な問題をいっそう鮮明にし、拙速な事業の盲進に歯止めをかけねばならないと思います。そしてそのために私たちの力を結集して、次の行動に移していくことを宣言します。

 2010年3月28日

シンポジウム「リニア中央新幹線は必要か?」参加者一同














会場いっぱいの200人が参加



基調講演をされた五十嵐敬喜・法政大学教授(公共事業論、弁護士)



明星大学の橋山禮治郎教授(公共計画)



JR東海労働組合の鈴木富雄中央執行委員長



電磁波環境研究所の荻野晃也所長



伊那谷自然友の会の松島信幸さん(地質学)



長野県大鹿村で自治会長をされているサイモン・ピゴットさん(翻訳家)



山梨県笛吹市市議会議員の野沢今朝幸さん



集会宣言を読みあげた野元好美さん(相模原市議会議員)



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