ダム完成後の地すべりの惨状を見る

〜埼玉県秩父の滝沢・二瀬ダム〜







 全国自然保護連合のメンバーは(2013年)8月10日、埼玉県秩父市にある滝沢ダムと二瀬(ふたせ)ダムを見学しました。
 滝沢ダムと二瀬ダムは地すべりがひどいことで有名です。ダム周辺の地層は火山灰が堆積してできたからです。


完成後の地すべり対策は、これまで145億円
  〜滝沢ダム〜

 最初に滝沢ダムに行きました。一級河川荒川水系の中津川に建設されたダムです。2008年に完成、総工費は2320億円です。

 このダムは、完成直後の試験湛水から大規模な地すべりがあちこちで起きました。水を貯めるとすぐに地すべりです。斜面の崩落や道路の亀裂、沈下、陥没が10か所以上で起きたとのことです。

 そこで、ものすごい数のアンカーボルトを打ち込んであります。アンカーボルトは1基100万円以上といわれています。見学会に参加した土木技術者の話では、「1基200〜300万円くらいするのではないか」とのことでした。

 ダムの完成後、地すべり対策としてこれまでに145億円をつぎ込んでいるとのことです。
 アンカーボルトをいくら打ち込んでも、地すべりは止まりません。そのため、計画水位まで水を貯めることができません。

 立派なダム湖周遊道路もつくられています。しかし、地すべりによる崩落の危険性があるためか、一部が立ち入り禁止になっていました。


ダム湖畔の民宿は、敷地に亀裂が走り、柱が傾く
  〜二瀬ダム〜

 次は二瀬ダムです。荒川の本流の最上流部に建設されています。洪水調節や利水、発電を目的とする多目的ダムです。1952年に着工し、1961年に完成しました。

 このダムは堆砂がはげしい勢いで進んでいます。完成から52年。すでに計画量の9割も堆砂が進んでいて、除去のための対策費が年間1億円もかかっているそうです。
 地すべりも深刻です。大雨が降ると地すべりが起こりやすいので、6月から8月末にかけて毎日90pほど徐々に水位を下げているといいます。
 地すべりは住宅などにも被害をおよぼしています。土留め工事などの対策が繰り返されてきましたが、地すべりは止まりません。

 湖畔に建つ民宿「梅林」に行きました。この民宿はダム建設による地すべりの被害をもろに受けています。貯水がはじまってから、敷地のあちこちに亀裂が走るようになりました。床下も亀裂です。建物の大黒柱も傾きました。

 原因は二瀬ダムです。しくみはこうです。
 二瀬ダムは毎年9月になると灌漑(かんがい)のために水を抜きます。水抜きの水量は2000万トンです。ダムに水を貯めると周辺土地の地下水が上昇します。そして2000万トンの水量を一気に抜くと、地下水とともに周囲の土地もいっしょに引っ張られます。この水位変動が亀裂や地割れを引き起こすのです。

 ところが、ダムを管理する国交省関東地方整備局は補償しません。「ダム水位の変化によるのか、大雨などによるのか、地すべりの原因が分からない」と言っています。結局、住民は泣き寝入りです。

 かつてはダム湖周辺に民宿がいくつかありましたが、ほとんど撤退したそうです。「梅林」も、経営者の山中潔さんが2011年に亡くなったため、廃業状態になっています。


八ッ場ダムも同じことになる

 八ッ場ダムの予定地や周辺の地層も、火山灰が堆積したものです。ですから、八ッ場ダムが完成すれば、地すべりを引き起こすことが確実視されています。
 八ッ場ダムのダム湖畔に整備中の代替地は地すべりの被害を受けるでしょう。その対策費は、二瀬・滝沢両ダムの何倍もの金額になるはずです。規模が違うからです。
 代替地に移転した人たちの将来が心配です。また、莫大な地すべり対策費は1都5県の住民や国民に転嫁されます。八ッ場ダムは中止すべきです。



見学者の感想



滝沢・二瀬ダムを見て八ッ場ダムを思う

牛野くみ子

 西武秩父駅を降りると、すぐ目の前に石灰岩を削り取られ、肌むき出しの武甲山が見える。何ともあわれだ。50年前と比べても40m以上は低くなった。そのうち消えるのか。
 次いでびっくりしたのは、滝沢ダムの貯水池のいたるところに地滑り対策のアンカーボルトが打ち込まれていることだ。
 土木専門家によると、地質の脆弱な場所にダムをつくり、水位を上下させると、水の力で深刻な地滑りや崩落事故をおこす。そこでアンカーボルトで抑え、水抜きなどの地滑り対策を永久にやっていく、とのことだ。
 二瀬ダム近くの民宿は、敷地に亀裂を生じ、建物が傾いた。灌漑時に貯水池の水を一気に抜かれると地面がいっしょに引っ張られるからだ。しかし、ダム管理者の国交省は補償しない。
 八ッ場ダムが造られる吾妻渓谷の断崖は、今から500万〜600万年前に陸上または水中から流れ出した溶岩や火山噴出物により成る地滑り地形だ。これを「八ッ場層」という(地学団体研究会・中村昭八)。「八ッ場層」といわれる一帯は、地滑り防止地域や地滑り危険箇所とされている。
 現在、地形条件の悪い中で代替地を無理して造成している。温泉街川原湯地区の移転先は打越代替地で、山の斜面を切り開き、谷を埋め立てて造られている。盛土の高さは深いところでは30〜40mになり、岩盤に達していないので非常に危険である。ダム湖が出来、水を溜めたり放流すれば、二瀬ダムや滝沢ダムと同様なことが起こるのは必至である。
 ダムはムダとよく言われるが、それ以上に人命に関わることである。幸いというか、八ッ場ダムの本体は手が付けられていない。今ならまだ間に合う。災害が起こらない前にダム本体工事から撤退すべきだ。山や渓谷を我々の代で消してはならない。


欠陥ダムの教訓をなぜ活かさないのか

細田邦子

 8月10日、「秩父4ダム」と言われる4つのダムのうち、滝沢ダムと二瀬ダムを見学した。
 治水、利水、発電、川の環境を守るなどの目的で荒川水系に建設されたダムだが、滝沢ダムは当初の目的を果たしていない。ダムサイトの地盤が脆く、いたるところにアンカーボルトが打ち込まれている。湛水も十分にできず、痛々しい景観である。周囲の地盤の脆弱さは当初から分かっていたであろうに、なぜ巨費を投じて建設を続行したのか。憤りを感じた。
 二瀬ダムは1961年に完成した。灌漑用の水位変動により、周囲で地すべりが起こっている。ダム周辺道路には亀裂がはしり、補修の跡がずっと続いている。また、近くの民宿は大黒柱が傾くなど、危険な状況になっていた。大量の水の破壊力というものは、津波からもわかるように人間によってコントロールできるようなものではない。地すべりが懸念されるような場所にダムを建設するのは、いろいろな意味であまりにもリスクが大きい
 これから本体工事に入る八ッ場ダムの場合も、周辺の地盤は脆弱だ。地すべりの危険が予想されるのに、関連工事は延び延びになりながら進められている。すでに建設された滝沢・二瀬ダムのような事態は何ら教訓として活かされていない。完成した暁に同じ轍を踏むことになった場合、補修工事を延々と続けていくつもりなのだろうか。
 税金を使って欠陥ダムを造る国交省や(独法)水資源機構は、あまりにも国民をバカにしている。


ダムは引退してくれ

山田 隆

 秩父は15年ぶりぐらいかな。山も歴史も心惹かれるものがたくさんあるのだけれど、身を切られゆく武甲山を見るのが辛くて、足が向かない。
 車は、荒川沿いを上ってゆく。やがて中空に高い壁が見えてきた。滝沢ダムだ。
 道はループを描きながら上昇する。飛行機の離陸のようだ。この上昇にダムの高さと罪深さを実感する。なんという暴挙だろうか。木々や草々や人の暮らしを沈めてしまうなんて。
 ダム湖を見おろすと、あちらこちらに針が刺さり絆創膏が貼ってある。満身創痍の治療跡とはこんな状況をいうのでしょう。 地滑りの補強工事跡だ。数十億のお金をかけているという。
 次に見た二瀬ダムも滑っている。土質がダムに合わないということなのだろうか。こんなコンクリートの塊を山のなかにぶちこむこと自体が道理に合わないことではないか。
 これらダムのコンクリートはきっと、切り刻まれた武甲山の変わり果てた姿に違いない。ダムのいらない人の暮らしの在り方はきっとあると思う。少しずつ、その動きは日本でもはじまっている。
 山肌に針を打ちこむことはもうやめてほしい。いつまでも、そんなことが続くなら、ダムそのものを無くすしかない。
 かつて、この地を通り抜け、峠を越えていった秩父困民党の人々の思いといっしょに、いつでも訪ねたい秩父に変わってほしいと思う。


八ッ場ダムは滝沢ダムの二の舞になる

志村恵美子

 西武秩父駅に降り立ち、しばらくして目に入るのは、樹木をはぎ取られたような武甲山の姿です。武甲山は良質な石灰岩が採掘されるそうで、70年以上前から採掘が続けられてきました。現在も毎年東京ドーム2杯分の採掘が続けられ、少しずつ山が変化しているそうです。
 滝沢ダムは、荒川水系中津川に建設された治水と利水目的の多目的ダムです。1969年に計画発表、1999年に本体工事着工、2005年9月に完成しました。水没世帯数は112戸です。
 しかし、完成直後の試験湛水開始直後から斜面で亀裂が発生です。2006年には35億円の抑え盛土工事、2007年には40億円をかけたアンカー工事がおこなわれています。2008年には市道と管理用道路で亀裂が発生し、現在、原因を究明中です。ダムとしての機能は果たしていません。着工前から大規模な地滑りが起こりやすい状態であり、地盤を補強してダム建設を始めたといういきさつがあります。
 ダム湖の斜面にはあちこちにアンカーがうたれています。ダム湖の周囲道路は亀裂が入り、がけ崩れが起きて人の頭ぐらいある石が道路に転がり、通行止めになっています。
 一方の二瀬ダムは、1947年のカスリーン台風の被害から、洪水調整、灌漑、水力発電を目的として1961年に完成した多目的ダムです。二瀬ダムは、建設着手の留意事項として、ダム付近と貯水地周辺の地滑り対策が必要とされていました。
 昨年(2012年)5月、八ッ場ダムを見学しました。周辺道路の工事中に、すでに地滑り対策工事のアンカーが目立ちました。本体工事着工前に地滑りが起きている状況では、滝沢ダムの二の舞どころが、工事を進行しながら地滑り対策に多額の費用をかけ続けることになると思います。
 八ッ場ダムが完成すれば、今まで地下水を水道水源としていた地域も河川水への切り替えをせまられるところがでてきます。しかし都内では、地盤沈下の予防に地下水のくみ上げ規制を続けてきた結果、現在では地下水が上昇し過ぎるという問題が出ています。
八ッ場ダムが建設されれば、滝沢ダムのように補修工事費だけがかさみ、ダム本来の役目も果たせず、都内では地下水が上昇し続け、地下の駅や地下鉄対策に費用がかさむことになります。




滝沢ダムと二瀬ダムの位置



滝沢ダム



滝沢ダムは地すべりがひどいため、ものすごい数のアンカーボルトが打ち込んである



滝沢ダムのダム湖周遊道路。地すべりで亀裂が走っている。
落石の危険もあるため、一部は立ち入り禁止になっている




二瀬ダム



湖畔に建つ民宿「梅林」は、敷地のあちこちに亀裂が走っている



石灰石採掘で岩肌をさらす武甲山



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