苦難を強いられる水没地住民

〜八ッ場ダム代替地を見学(2013年8月)〜







 2013年8月2日、八ッ場ダムの予定地を見学した。


ダム関連工事は続いているが…

 八ッ場ダム予定地はダム関連工事がどんどん進んでいる。川原湯温泉街は大部分の建物が壊され、わずかに残る旅館はきびしい経営を強いられている。なんども泊まった川原湯温泉の山木館は取り壊されて跡形もない。
 新しい山木館は打越地区(新住宅街)の代替地に建設中である。開業は9月下旬の予定だ。二階建ての建物や露天風呂はほぼ完成に近い状態である。ところが、旅館の敷地は塀で囲まれている。露天風呂からは周りの景色が見えない。景色が見えるのは2階の客室だけである。
 かつての山木館は、良質の温泉や、ひなびた素朴さ、ムササビがやってくる宿、露天風呂からの眺望などを売りにしていた。新しい旅館は何を売りにするのだろうか。注目したい。


新温泉街は

 打越地区に隣接する大沢地区代替地は新しい川原湯温泉街である。今年7月3日、土産物店「お福」が第1号として営業を始めた。店主は樋田ふさ子さん(84)である。
 新しい店はたいへん立派だ。喫茶店「まるきやcafe」も併設され、孫娘さんがきりもりしている。
 ふさ子さんは相変わらず元気だ。「こんな歳になったが、新しい温泉街の活性化につながるようにがんばりたい」と話してくれた。

 大沢地区(新温泉街)では、新しい共同浴場「王湯」の建設もはじまった。でも、新温泉街の整備は遅れに遅れている。できている建物は「お福」と公衆トイレだけである。
 新温泉街の中には町道が何本か整備される予定だ。だが、まだ1本もできていない。
 新しい県道から「お福」に通ずる道も砂利道である。ふさ子さんはこう語った。
     「新温泉街の中に町道がいくつか整備されることになっている。だが、ひとつもできていない。店をオープンしても、進入路がなければ客はやってこない。そこで、国交省が仮設進入路をつくってくれた。ご覧のとおり砂利道だ。きちんとした町道を早く整備してほしいと要望している」
 「新温泉街が一日も早く活性化することを願っています」「お元気で」と言葉をかけておいとました。


道の駅「八ッ場ふるさと館」

 新しい国道沿いにできた道の駅「八ッ場ふるさと館」にも立ち寄った。ここは、地元の長野原町が水没予定地の生活再建事業として整備した。  開業は今年4月だ。農産物直売所やコンビニエンスストア、レストラン、足湯などが整備されている。ここは便利な場所にあるため、草津温泉に向かう人などが立ち寄り、けっこうにぎわっていた。「八ッ場ふるさと館」には八ッ場ダムPRセンターの「やんば館」も併設されている。


「現地再建方式」は大ウソだった

 八ッ場ダムのうたい文句は「現地再建方式」(ずり上がり方式)であった。新しくできるダム湖の湖畔に代替地を造成し、そこに、水没する川原湯温泉街や住家を移すというものだ。
 しかし、代替地の整備はたいへん遅れている。そのため、住民は次々と長野原町から転出した。22軒あった川原湯温泉の旅館は4軒に激減した。代替地に移転して営業をはじめた旅館はわずか1軒(やまた旅館)だけだ。それも、新温泉街ではなく新住宅街である。
 国交省は、代替地や県道、町道の整備が遅れていることについて、「民主党政権が八ッ場ダム中止を表明したため」と言っている。これは大ウソだ。民主党政権が誕生したのはわずか4年前である。「それまでなにをしていたのか」と言いたい。

 水没予定地の人たちは、国交省にだまされつづけ、たいへんな苦難を強いられている。現地に行って話を聞けば、そのことがよくわかる。
(2013年8月、『全国自然通信』編集部)




打越地区代替地(新住宅街)で建設中の新山木館。
開業は2013年9月下旬の予定



新温泉街で営業をはじめた土産物店「お福」。喫茶店「まるきやcafe」も併設



新温泉街(大沢地区代替地)の整備は遅れに遅れている。
中央奥は、建設中の新共同浴場「王湯」



川原湯温泉の山木館は取り壊されて跡形もない



工事中の湖面1号橋



新しい国道沿いにできた道の駅「八ッ場ふるさと館」。丸岩もよく見える



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