動物たちに帰れる森を、地元の人たちに安心を

〜日本熊森協会の活動〜


一般財団法人日本熊森協会 会長  森山まり子






 日本熊森協会は、中学校の理科教師だったわたしと、わたしといっしょに絶滅寸前の兵庫県野生ツキノワグマの保護運動に立ち上がった教え子たちが、かれらが大学生になったのを機に、クマをシンボルに結成した奥山保全・復元団体です。くわしくは、『クマともりとひと』(現在50万部)をご覧ください。


*絶滅寸前のクマが教えてくれた日本の森の危機

 わたしは兵庫県の尼崎市に生まれ、神戸市で育ちました。大学で専攻したのは物理で、物性の研究室にいました。そういうわけで、わたしは、クマにも森にも何の関係もない人生を送っていたわけですが、平成になって、餌を求めて山から出て来ては次々と撃ち殺されているクマの現状を知って胸が痛み、教え子である生徒たちと原因を調べて、戦後の森林政策の大失敗により奥山が大荒廃していることを知りました。


*教え子たちが生き残りたいと言った

 わたしは以前、人類という動物に絶望していました。人類はとどまるところを知らない人口爆発と科学技術の発達によって、自らの生息環境でもある地球環境を破壊し続け、罪もない多くの生き物たちを巻き添えにして、滅びにむかってまっしぐらに突き進んでいます。人類なんて早く滅びた方が地球環境のためになる、わたしはそこまで思っていました。
 しかし、クマの保護活動に立ち上がった教え子たちが、「ぼくら、滅びたくない。寿命まで生き残りたい」と言い出したのです。私は困ってしまいました。


*誰一人動かない

 教師の仕事だけで連日パンクしているわたしに、自然保護活動を行う余裕などありません。わたしたちは5年間、行政、研究者、団体、手当たり次第に、日本文明を支えてきた奥山の荒廃を伝え、この問題に取り組んでくださるようお願いし続けました。しかし、だれ一人、動こうとしてくれませんでした。


*日本にも欧米並みの大自然保護団体を作ろう

 そんな時、岩波新書142『アメリカの環境保護運動』(読売新聞解説部次長・岡島成行著)を読んで、自分たちが日本にも欧米並みの大自然保護団体を作ればいいのだと気づかせていただきました。こうして1997年、奥山保全・再生に生涯をかけようと教え子たちと固く誓いあって、実践自然保護団体である日本熊森協会を起ち上げました。どこまでも自分たちの正義感と良心だけで活動できるように、「永遠に国からは1円ももらわない」と決めました。おかげで、あれから17年、まったくぶれることなく運動を進めることができました。


*日本最大の実践自然保護団体に成長

 私たちの運動のやり方は、若者を先頭に立てて、大人は後ろで支えます。若者たちは、大人たちが思いもつかないような斬新な発想や行動力で、現地に出かけ、汗まみれ泥まみれになって実践自然保護活動を行い、ロビー活動等も展開していきました。こうして、わたしたちは2万7000名の会員数を持つ団体に成長し、本部のある兵庫県に事務所ビルを備え、10名程度の職員を持てるまでに成長しました。2010年11月末には、超党派の国会議員63名による「奥山水源の森保全再生議員連盟」を結成することもできました。そこへ、東日本大震災です。


*福島原発事故の意外な影響

 国会は震災復興一色となり、奥山問題どころではなくなってしまいました。その後の総選挙では、ごっそりと議員が入れ替わり、せっかく苦労して作った議員連盟が消滅してしまいました。福島原発事故直後、森や動物を守るよりも原発を止める方が先だという声が上がって、何人かが会を辞めていきました。今、関東以北の熊森支部は、放射線量が高くて、山での活動が難しくなっています。現在、心ある国民の中に、無力感や脱力感が広がっているのでしょうか。以前のように講演しても、会員が増えなくなってしまいました。現在、会員数が減り続け、今では2万人を割ってしまいました。団体にはいろいろな時期があるのだなあと、いい勉強をさせてもらっています。


*動物たちが棲める広葉樹の森を復元・再生したい

 全国自然保護連合の基本方針は「お金もいらぬ。名誉もいらぬ。日本の自然を守りたい」。まるでわたしたちの会と同じです。こんな会が、熊森以外にも日本にあったことを知って、わたしは叫びたいほど感動しました。4月12日に日光で開かれた全国自然保護連合の総会には、熊森栃木の真下弘征支部長ら他2名の会員と共に参加させていただきました。
 これを機に、私たちよりずっと前から、日本の自然保護運動に本気でかかわって来られたみなさん方諸先輩にいろいろ教えて頂きたいと願っています。どうぞ、よろしくお願いします。 「動物たちに帰れる森を、地元の人たちに安心を」のスローガンのもと、熊森は、今後も大型野生生物を保護し、奥山に植えられた針葉樹一辺倒の人工林を除去して、動物たちが棲める広葉樹の森を日本中に復元・再生していきます。
(2014年4月)




2013年秋、民間として初めて、熊森チェンソー隊が
兵庫県にある国有林の間伐に乗り出した





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