原発ゼロを求める人は完璧主義者?

〜小熊英二・慶大教授のスピーチにブーイング〜

中山敏則






 社会学者の小熊英二氏(慶応大学教授)は、気鋭の論客として売れっ子です。著書『〈民主〉と〈愛国〉』(新曜社)は、毎日出版文化賞と大佛次郎論壇賞を受賞しました。『1968』(全2巻、新曜社)、『社会を変えるために』(講談社現代新書)、『原発を止める人々』(文藝春秋)など、数多くの本を著しています。

 その小熊氏が、(2015年)3月8日に開かれた「ノーニュークスデイ 反原発☆統一行動」の第二部(国会正門前集会)でスピーチしました。スピーチを聞き、「えっ」と驚きました。内容がひどかったからです。

 彼はこんなことを述べました。
  • 今後再稼働する原発は7、8基ぐらいだ。それらは西日本に集中している。10基はむずかしい。
  • 原発ゼロを求める人たちは完璧(かんぺき)主義者だ。
  • 集会参加者の中に「原発事故がもう一回起きてほしい。そうでなければ集会に人が来てくれない」と思っている方がおられたら、それは発想がおかしい。

 スピーチが始まる前、司会者は「スピーチに対するヤジや批判はやめてほしい」と要請しました。ところが、小熊氏のときだけはヤジが相次ぎました。無理もありません。集会参加者に冷水を浴びせる内容だったからです。

 彼は、原発ゼロを求める参加者を完璧主義者と揶揄(やゆ)しました。7、8基ぐらいの再稼働は我慢しなさい、という主旨の話です。しかし、原発は1基でも危険です。ですから、原発のない社会をめざしています。彼の話は、そういう参加者の思いを逆なでするものでした。

 きわめつけは、「原発事故がもう一回起きてほしい。そうでなければ集会に人が来てくれない…」というくだりです。これにはア然です。怒った人もたくさんいました。「そんなヤツは、ここにはひとりもいない!」という批判が相次ぎました。集会のあと、参加者からこんな声が寄せられました。
     「小熊教授の話は、自分を高みに置いたもので、うすっぺらだった。大人が子供をさとすような言い方だった。集会に参加した人はみんな、原発ゼロを強く求めている。原発は1基も動かすな、というのは国民世論の過半数を占めている。原発稼働ゼロでも電力は足りている。原発は1基もいらないということだ。だから、原発ゼロは非現実的な主張ではない。それなのに、原発ゼロを求める私たちを完璧主義者と言った。あきれた学者だ」

     「小熊教授は、すべての原発再稼働に反対する私たちを完璧主義者とひやかした。何をバカな、と言いたくなる。西日本だったら8基ぐらい再稼働させてもいいのか、と言いたい。原発は1基でも事故が起こればたいへんなことになる。だから、私たちは原発ゼロを求めている。社会学者であれば、脱原発の国民世論をさらに高め、運動を大きく広げるための方法を提起すべきだ。それをせずに、7、8基の再稼働は我慢しなさいみたいなことを言う。とんでもないことである」
(2015年3月)



小熊英二・慶大教授のスピーチ(要旨)




3・8ノーニュークスデイ 反原発☆統一行動

小熊英二・慶応大学教授のスピーチ(要旨)

 「原発はとてもいいものでCO2の削減に役立つから、どんどんつくろう」。そのように言う人は、業界関係者を除けばだれもいないだろう。そのくらい日本が変化したことは間違いない。

 それでは、これから原発が再稼働するとして、いったいどれくらい再稼働するのか、という問題である。

 経済雑誌などではこんなことがいわれている。おそらく原発を10基再稼働させることはむずかしい。いま申請がでているところで20基ぐらいだ。それもほとんどが西日本に集中している。北海道は微妙だが、東日本は再稼働がむずかしいだろう──と。

 ここに集まっておられるみなさんは、4基でも5基でも再稼働は許せないという完璧主義者の方が多いのではないか。パーフェクトゲームでは、1本でもヒットを打たれたら終わりだ。そう思っておられる方が多いと思う。

 客観的にみたら、福島原発事故以前にはどんなに過激な反原発活動家でも夢見ていなかった状況がいま実現している。54基あった状態から7、8基ぐらいしか動かないだろうという状態にもっていくというのは、過激な反原発活動家も夢見ていなかった。

 途中で2基ぐらい動いたが、原発稼働ゼロが2年も3年もつづいている。そんな状態が実現するとは誰も思っていなかった。それくらい日本は大きく変化した。みなさんはあまり悲観しないほうがいい。

 この集会に来ている人たちは、2年前と比べるとはるかに数が少ない。当然である。あのときは、東日本や東京圏がすべて避難せざるをえないかもしれないという恐ろしい状態だった。だから反原発集会に10万人参加するということがあった。しかし、10万人が毎週参加するという状態が2年も3年も続くというふうになれば、その国はとっくにつぶれている。

 そういう非常事態は、どの国の歴史をみても1回もない。どの国をみても、そのような極端な状態が続くのはせいぜい2カ月くらいだ。

 こういう活動をしている方の中に、「原発事故がもう一回起きてほしい。そうでなければ集会に人が来てくれない」と思っている方がおられたら、それは発想がおかしい。自分の夢のために人を不幸に落としいれることは、絶対にあってはいけない。

 集会に参加する人が減っているというのは、ある意味でとてもいいことである。非常事態みたいなことがずっと続けばおかしいからだ。

 それでは、ここに来ている人たちはいったいなんなのか、ということである。それは、不寝番、つまり夜中に寝ないでたき火をしてずっと番をしている人たちである。そういう人たちは、その村や町に数人いればいい。

 私も毎週金曜の官邸前行動に2、3週間に1回の割合で来ている。みなさんは偉いな、と思う。一銭にもならないのに、寒い中でよく来るものだと思う。偉いけれども、数が少ないのは当たり前だ。みなさんは不寝番だから、重要な役割を果たしている。

 原発の問題に関しては、そんなに悲観しないでいいと思う。これからも続けていけるものは続けていきましょう。






小熊英二・慶応大学教授






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