瀬戸内海の埋め立ては止められるか…

〜新瀬戸内法の成立をめぐって〜

環瀬戸内海会議幹事/食と農・環境フリーライター 若槻武行






 瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸内法)の「一部改正案」(新改正案、新瀬戸内法)が議員立法として参議院に上程され、衆議院本会議で9月25日に可決・成立した。衆参両院とも全会一致だった。


自公提出の改正案(旧案)は廃案に

 環瀬戸内海会議は昨2014年3月、埋め立て、産廃持ち込み、海砂採取の3つの全面禁止を明記した法案改正の署名10万筆を衆参両院議長に提出した。
 一方、自民・公明両与党は、瀬戸内法改正案(旧案)を2014年6月、第186回通常国会の参議院に議員立法として提出した(『全国自然通信』119号を参照)。この法案は同通常国会で継続審議になった。続く臨時国会では一度も審議されず、同年11月の衆議院解散で廃案となってしまった。


4党協議でまとまった「新改正案」

 その後、自公与党は、野党の民主・維新にたいし、議員連盟の結成と、野党に配慮した法案修正を今年(2015年)の第189回通常国会で提案した。4党の協議によって「新改正案」がまとまり、法案は議員立法として参議院に提出された。
 4党の議員連盟が上程した「新改正案」では、@旧案で「富栄養化」条項を全面削除した点を撤回し、その対策を復活させたこと、A「貧酸素水塊」という文言を条文に初めて明記し、対策の必要性を提起したこと、B「生物多様性の確保」の文言を入れ、配慮したこと、C各府県環境保全計画策定の湾灘協議会で「幅広く住民の意見を求める」と変更したこと、D旧案では「事業」という文言が各所にあったが、その偏重が緩和されたことなど、評価できる点がある。


「新改正案」の問題点

 ただ、その内容は曖昧(あいまい)で、次のような問題点がある。

 第1に、旧案同様、年間100件におよぶ赤潮・富栄養化の原因の検証が不十分である。浅瀬や干潟の埋め立ては、貝類、ゴカイ類など、海水を浄化させる生物を死滅させ、赤潮の原因となっている。赤潮の下では「貧酸素海域」ができているが、その改善策が具体的でない。
 第2に、「再生・創出事業」の内容が不明である。「事業」が新たな埋め立てにつながるという懸念も依然残っている。産廃、特に有害鉄鋼スラグによる埋め立ても懸念されている。
 第3に、「事業」の内容がこれまでと同じ「人工磯浜・砂浜等の造成」では、膨大な経費の浪費でしかない。これまでの人工藻場・干潟の創設はすべて失敗し、むしろ環境破壊を招いている。人工磯浜造成の極端な失敗例は、山口・広島県の航路浚渫で出たヘドロの捨て場に困って近くの浅瀬に入れ、その上に砂をかぶせて「人工砂浜」を造成したことだ。ところが、歩くと腰まで沈む。藻は生えず、貝は生息しない。砂は流出する。一時は海水浴場として賑わうも、すぐに閉鎖した。また愛媛県では、浅瀬に入れた土砂がタコ壷の漁場に流出し、タコが獲れなくなった。潮流など自然の力を無視した事業は、成功するはずがない。
 第4に、「事業」を言うなら、各地の埋め立て地(未利用・遊休地が多い)の磯浜・干潟の復元・回復を、自然に任せた形で試みるべきだ。
 第5に、生物多様性を奪った要因の究明・分析がないことである。浅瀬の喪失、海砂採取が生物の産卵や生息域を壊し、赤潮と貧酸素海域を生んでいる状況が放置されたままだ。
 第6に、各府県の湾灘協議会の構成メンバーに「環境NGO参加」の明記がないことである。


今後の課題

 「新改正案」は、参議院の環境委員会・本会議、衆議院の環境委員会・本会議を経て成立した。
 昨年の「旧改正案」に比べれば、我々の主張がいくつか採用された。衆参の環境委員会での質問では、特に未使用・遊休の埋め立て地の多さと広大さが指摘され、それを国土省・環境省が把握していない点などが厳しく追及された。それが議事録に残ったことは大きい。
 衆参両環境委員会では、瀬戸内法や生物多様性についての総括と調査・研究、未利用埋め立て地や既存施設の活用を新たな埋め立てに優先させるという、今後の埋め立て抑制につながる付帯決議を行った。
 環瀬戸内海会議は四半世紀にわたり、瀬戸内法の改正を求めて運動してきた。その主張の基本原則と現場の耐え難い思いからいうと、まだ手放しでは喜べない少なからぬ不満が残っている。
 新瀬戸内法では5年ごとの見直しが明記されている。今後は瀬戸内海での警戒を強め、同法のさらなる修正を求めて運動することになるだろう。
(2015年9月)





■瀬戸内法改正をめぐる経過
 2014月3月 環瀬戸内海会議が、瀬戸内法改正を求める署名10万筆を衆参両院議長に提出。     6月 自民・公明両党が「瀬戸内法改正案」(旧案)を第186回通常国会に提出。     11月 旧案は廃案に  2015年9月 自民・公明・民主・維新4党の協議でまとまった「新改正案」が第189回通常国会        に提出され、全会一致で可決・成立






自民・公明両党が2014年の第186回通常国会に提出した「瀬戸内法改正案」(旧案)の修正
を江田五月参院議員(左)に要請する環瀬戸内海会議のメンバー=2014年9月19日













★関連ページ

このページの頭に戻ります
前ページに戻ります

[トップページ]  [全国自然保護連合とは]  [加盟団体一覧]  [報告・主張]  [リンク]  [決議・意見書]  [出版物]  [自然通信]