■大阪湾船上見学会

埋め立てが海を殺す

〜神戸空港問題〜

讃岐田 訓



 神戸の震災から来年(2005年)1月17日で10年になります。神戸空港問題は、地震の前から問題になっていました。地震で財政的にも破綻状態になり、神戸空港はとまるだろうと思っていたのですが、市長は3日後には「神戸空港は希望の星」だと言って、「空港をバネにして神戸の復興を図る」と、より一層アクティブに建設にまい進、現在に至っていて、1年数カ月後に、来年(平成17年)度末に開港するというスケジュールで動いています。
 神戸空港にはいろんな問題があり、それが全く解決されずじまいで今に至っていて、もう開港と言っている。その問題の概略を申し上げます。


●財政的問題

 まず、財政的な問題です。このプロジェクトはポートアイランドの先に272haという大きさ、甲子園球場の60倍くらい、この埋め立てにかかる費用が3140億、国から500億、あと2700億くらいは自前で調達します。その調達は、起債をしてお金を借りる、返し方は、出来た土地を売る、民間に買ってもらう。その買上げ金で借入金の支払いをする、という計画でスタートしました。しかし今、民間で誰も買わない。
 また、埋め立てをした後の費用は相当かかります。神戸市の最初の計画段階では1兆円産業と助役さんは豪語していた。ところが、1兆円とすればあと7000億くらいをどこからか捻出しなければならない。しかし神戸市はもう震災の前から赤字に転落していて、全国では下から数えるほうが早いくらいの財政難でありました。今から7000億どうするか、市民の税金には手をつけない、と言っていますが財政の裏づけがない。そういう意味で、これだけの埋め立ての支払いも出来ないし、その後のお金がどこから出てくるのか。
 更に、この空港は1年半後に飛行機が飛ぶようになった時、ちゃんと採算が合うかどうかということも市民は心配しています。何故心配かというと、神戸市の需要予測では、約400万ということですが、その400万というのは、ちょっと乗るわけがない、というのが一般の見方です。何故かというと、例えば仙台や広島の空港、どれ位の比率で乗っているか、大体16〜17%が飛行機、五分の一に満たないというのが、新幹線と空港が並存しているところの例です。神戸の場合も新幹線はたいへん便利です。それでも神戸の計算は新幹線に乗る数と飛行機に乗る数、大体同じくらいの数字を出しています。1対1くらい。だから5倍くらい他の都市より需要予測を多めに見積もっている、それでやっと採算が合うと言っている。それがフタを開けてみると、神戸市の場合、他のプロジェクトでも大体彼らが言った予測の3分の1です、どこでも。それで経営難でムチャクチャになっている。
 空港の場合もたぶん3分の1くらいしか乗らない。空港経営で毎年赤字が出る。


●安全性の問題

 安全性の問題でものすごく心配されていて、航空安全会議という管制官やパイロットとか整備士も入った組織ですが、これが、怖いと言っている。パイロットはよう飛ばんと言っている。それくらい怖い。何故かというと、ここに空港が出来て、その西宮の向こうに伊丹の大阪空港があり、ここに関空がある。この三つの飛行機が大阪湾上空を錯綜して飛ぶ訳です。ことにこの明石海峡が一番問題で、西へ向かう飛行機は明石大橋、約1000フィートの支柱、東へ行く飛行機はこの舞子のあたりを昇って六甲山脈を越えていく、いずれにせよ急上昇しながら行かないとなかなか越えられない、橋も山も。それで、昇っていく時に、上から関空へ降りてくる飛行機が来る、2000フィートくらいまで降りてくる。神戸空港から飛び立った飛行機は1000フィート上と下を抑えられた形で飛び出していかなきゃならない。これは西から風が吹いている時で、追い風になると危ない、だから風向きによって向きを変える、その時に急上昇して、1000フィート以上は危ない、旋回して昇っていく、海面すれすれに旋回して戻ってきて昇っていく、これが怖い。更に、冬は六甲おろしの風が巻く、横風が当る。冬場にここで飛行機に乗ると何が起こるか分からん、ということがあって、パイロットは飛べないと言っている。
それから、神戸空港の下は活断層がある。これは確認済みです。


●港湾機能の障害

 それから、神戸港はこの中枢部分に航行禁止区域ができる。そうすると港湾へ入ってくる船は物凄く迂回しなきゃならない、港湾機能はガタ落ちになるだろうと言われている。そんな原因があったりして、いろんな面で問題がある。


●環境破壊

 もう一つは、この構造物が大阪湾の環境を破壊するのではないか、ということで、僕らの会は、その問題について4年くらい調査をしてきました。そのことについてお話をさせてもらいます。瀬戸内で発生した赤潮は、昭和41年がピークで299件、昭和51年、1976年、瀬戸内法が出来てから2年後ですが、ここがピーク。10年以上前に100まで落ちたがその後は下がらない、海が悪い状態で安定してしまったということです。埋め立ても止まっていない。当時1万7000ha、今3万haです。
 大阪湾が一番汚染が進行していて、瀬戸内海の平均汚染の約3倍、特に大阪湾北部が産廃でダントツに汚れている。ところがまた巨大埋め立てをやっている。今、大阪湾の汚染の原因物質はチッソとリンです。昔は重金属類などが主体で工業系の排水の寄与率が70%、生活系が20%くらいだった。しかし最近は工場系20%、生活系70%。生活系がどこから入ってくるかというと淀川です。淀川が圧倒的に流量が多い。流量×濃度で負荷量を見る、CODで見てみても淀川がダントツです。これは、流域が非常に大きい。流域に1000万人以上の人が生活をしている。だからどうしても生活系から出てくる排水が入ってくる。だから、大阪湾の汚染の元凶というのは、まず最初に淀川を何とか、ということがこれで分かる。そして、神戸空港を造った時に淀川の水がどう動向するかということが大阪湾の環境の一つの要因かなと思っています。
 通産省が広島の呉に瀬戸内海の2000分の1の模型を持っています。瀬戸内海は東西約450km、豊後水道から播磨灘・大阪湾、紀伊水道の端まで、その二千分の一というと225m、そういう模型がある。その模型を使って通産省がやった実験で、大阪湾の所だけで、潮汐をかける。2潮汐で1日。淀川の河川に赤い染料を流して、淀川の水がどう動くか調べた。5日目、10日目、15日目、20日目と見ていくと、拡がって回り込み、紀伊水道へ出る。ここに何も、神戸空港も六甲アイランドも関空もない状態では、淀川の水は南下していた。それが大阪湾の構造です。大阪湾の動きは時計回りに動いていた。ところが神戸空港、関空横風用、六甲アイランドの構造物を置いてみると、20日、25日目でも滞留してしまう。そうすると、この三つの構造物が出来たなら、淀川の汚染物質はここに滞留している、どんどん沈んでしまうということになって海が腐ってくるんです。これは大変なことになる、ということです。この三つのうちどれが問題かということで、この人たちの実験は、神戸空港を2km離した所に置いて、同じ潮汐を見ると、一寸南下するようになる。で、4km離した、そうするとそんなに影響ない、という実験結果です。もう一つは、10年前に京大の防災研が、五千分の一の模型で、神戸空港を置いて潮汐実験をやった。結論は、埋め立てで潮流が変化して汚濁が加速する、ということ。だから、通産省も京大も神戸空港が出来たら大阪湾の汚濁は進行することを予測しています。
 そこで僕らは、これが出来た段階で実験を開始しました。もう既に4年前に護岸が出来ています。護岸が出来ると、海に対する影響はそこで出てきます。そこで、出来た段階で、ここ明石海峡ですが、4カ所のポイントを決め、そして西側、東側、ここが淀川河口、この10点で海の状態を調べるということをやりました。  明石海峡から潮流が、非常に酸素を豊富に含んだ水が流れてきますので、その水が大阪湾の中まで入ってくる状態が今まで分っています。そういう水を妨害するようなことはしてはなりません。西から東へ流れる潮流で、東側と西側の状況が歴然と変れば、空港の影響だろうと考えられます。
 何を見るかというと、まず透明度をみる。それから海底の溶存酸素を見る。ほかに、今度は塩分を見る、これは淡水ですから、そうすると淀川の水の浸入の状況が分る訳ですね。それから、栄養はタップリですから、プランクトンの状況を見ると淀川の汚染水の影響がわかるだろうということなんかがあって、これが入ってくるとプランクトンが大増殖する、クロロフィルという葉緑素をみるとプランクトンの量が分る。海底は、有機物がこういうものがたくさん出来ると沈降して有機物が海底に溜まり込むんですね、そうするとそれがバクテリアに分解されて酸素がどんどん減っていきます、つまり海底の溶存酸素がどんどん減っていく、こういうことが汚染海域の特徴なんです。殊に夏場の特徴です。だから、ここの溶存酸素の状況を調べることが大事。これは分解されるとチッソとかリンが沢山ここで出てくるんです。だからこの栄養塩類の濃度がどうなっているかを調べることによってこの溶存酸素の状況とのかねあいで分ってくる。だから海底では溶存酸素の濃度を調べることと、それからチッソ・リン類の出来具合を調べるということで、そういうことで汚染海域の特徴が出てきているかどうかを調べます。

 これは第1回目のデータ、2001年夏のデータ、(1)〜(4)の地点は西側、明石海峡の潮流の影響をよく受けるところ、(4)と(5)の間に神戸空港の護岸が出来ている。(5)〜(8)、これが淀川河口。(1)〜(4)は4〜5mくらい見えている。大阪湾で4〜5mはすごく良い。これは、夏場でこんなに見えるというのはうれしいこと、で、ところが(4)と(5)の間、これで、4.5mという透明度を持った水が、神戸空港の存在によってどうも行っていないのではないかと思っている。
 ここからまたもうちょっと淀川寄りに行くと、もう1mくらいしか見えない。もちろんこの芦屋沖、西宮沖のように長い防波堤で囲われてしまっているから、どうしても悪くなる。空港から東側が透明度が急激に悪くなるということで、ここで護岸の影響が出てるんじゃないかということは透明度を見ただけで一つ分るわけです(図3)。
その次が溶存酸素、DOと言いますが、ppmで出しています。ppm8くらいが飽和濃度、そうすると西側は大体飽和した水が流れてきている。夏場にこれくらいの水が底層にあるということは、非常に良い海です。ところが、神戸空港を挟んで、3くらいになってしまう。生物にとっては2を切ると大変、1を切ると殆どのものが死に絶えてしまうということで、僕らは2を目安にしますが、そうすると、もう危ないところまで来ている。もうちょっと東へ行くと1を切っている。こういう状況が護岸で生まれているのではないか、ということです。表層には栄養塩類がきますのでプランクトンが繁殖し、プランクトンによる酸素の生産があり、東側へ行くほど高くなっている。飽和点以上、酸素の泡が出てくるほど酸素が充満している。それは何かというと、プランクトンだらけではないかと推測される。

 そのほかに、DO、クロロフィル、塩分、水温、チッソやリンのデータが水深によってどうなるかということを見ます。これも、河川水の流入による汚染海域の典型的パターン、これが神戸空港の東側だけで見られる、西側では見られない。海底の無機体、チッソ・リンを見てもやはり汚染された海域になっているかどうかの判定の一つのポイントになります。今見ましたようなファクターは汚染海域かどうかの目安になるポイントなんですが、それらは全て整合性を持って神戸空港の東側で現れてしまっている、ということが言えます。
生き物で見ると、明石海峡近くでたくさん獲れるナメクジウオ、節足類、甲殻類、こういう連中は砂地に多い。酸素が無くなってくると生息できません。だから、これがあるかどうかが一つの目安になる。もうちょっと泥が増えると貝類、ゴカイ類が多くなる。砂泥・泥で、多毛類、ヒトデ・ウニなど。どういうものが出てくるかによって海底の状況が判断できる。殊に汚染指標種、これがたくさん出てくるともう最悪という海です。ヨツバネスピオ、ゴカイ類の一種、エラが大きい、かすかな酸素をこの大きなエラで集める。溶存酸素が無くなり酸欠状態になっていく時の最後の生き物です。これは泥を食って生きている。それとミズクガイ、この二つの生息比率、獲れた個体数の中で何%を占めているか、ということで海底の判定をする、ということをやっています。
 これは3年間の汚染指標種のパーセントを出したものです。1年目は(1)〜(4)はなくて、2年目は(5)番で90%以上。だから、(4)まではなかなか良いのに(5)以降はボロボロ、生物を見ただけでも神戸空港護岸の影響が歴然と出ていると言えます。

 神戸空港は市営空港、環境的に神戸市が破壊しています。環境を考えただけでも、神戸空港は大阪湾をボロボロにしているということが言えると思うので、また、我々としては自然を守る、海を守るという意味で、神戸空港の護岸、これが災いですから、僕はどうして欲しいかと聞かれたら、災いを断たなきゃだめ、ということで、護岸を撤去してくれ、ということを主張しています。長くなりましたが、終ります。

(文責・『全国自然通信』編集部)







建設中の神戸空港




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