■大阪湾船上見学会

埋め立てラッシュの大阪湾を見学して

原田吉彦





 全国自然保護連合は2004年11月の6日と7日、神戸市で交流会と大阪湾船上見学会をひらきました。交流会と見学会では、「神戸空港工事の中止を求める市民の会」の讃岐田訓代表(元神戸大学教授)が、「埋め立てが海を殺す」というテーマで大坂湾の環境破壊ぶりをくわしく説明してくれました。


 ◆大赤字必至、環境破壊の神戸空港

 大阪湾は、いまも大規模な埋め立て工事が進行中です。兵庫県側では神戸空港、六甲アイランド南、大阪府側では大坂南港沖の新人工島、関西国際空港拡張(2期)と、4つもの工事が進んでいます。まさに、埋め立てラッシュで、すさまじいばかりの環境破壊です。このままでは、海というより運河になってしまいます。
 このうち神戸空港は、神戸市が、「市民の希望の星」とか「空港をバネにして神戸を復元させる」などとバラ色の未来予想図を描いて工事を進めています〈注〉。しかし、それは大ウソです。じっさいは大阪湾の環境を破壊するばかりか、神戸市民に莫大な借金のツケを負わせるものです。讃岐田氏によれば、同空港の問題点は次のとおりです。
〈注〉神戸空港の概要(イメーズ写真付き)はこちらをご覧ください。

(1)空港建設によって市の財政はメチャクチャに
 バブル期の前までは、神戸市は「株式会社・神戸」と呼ばれように、都市経営の手法が全国的な注目を浴びていました。その手法は、「山を削って海を埋め立てる」というものです。具体的には、六甲山の丘陵地帯を削って宅地開発をおこない、その土砂を使って埋め立てた土地に住宅や工場を誘致するというものです。こうやって埋め立てた「ポートアイランド」の1期は、土地が売れに売れて、神戸市は大儲けしました。
 その後、東灘区沖に「六甲アイランド」を造成するなど、神戸市は大規模な埋め立て開発をおしすすめます。しかし、バルブがはじけた後は、埋め立て地が思うように売れません。「ポートアイランド」の2期は、土地がわずかしか売れず、大赤字です。その結果、借金が雪だるま式にふくれあがり、市の財政は破綻状態です。
 それなのに、さらに海を埋め立てて神戸空港をつくるのです。この空港の埋め立て事業費は3140億円です。そのうち、国庫補助は約500億円だけです。ですから、約2600億円を市が負担しなければなりません。空港の全体事業費は1兆円とみられているので、さらに7000億円を市が負担することになります。
 問題は、この空港は利用がそんなに見込めないということです。新幹線と空港が並行しており、しかも伊丹空港と関西空港が近くにあるからです。
 市は、年間340万人の利用客を見込んでいます。しかし、2006年2月の開港を前に、乗り入れを表明した航空会社は1社だけです。日本航空や全日空など主な航空会社は、乗り入れを見送っています。
 市は、埋め立てた空港島(272ヘクタール)のうち74ヘクタールの土地(空港ターミナル用地や駐車場用地など)を売却することで二千数百億円の財源を得るから、「市民には迷惑をかけない」と言っています。しかし、企業の資金不足や経営難、航空業界の不況などで、この土地が売れる見込みはありません。
 神戸市は新たな市債(借金)の発行によって事態を先送りしようとしています。しかし、前述のように、市財政はすでに借金漬けになっています。今年度は、市税収入の実に67%を公債費(借金の支払い)にあてなければならないという惨たんたる状況です。
 讃岐田さんは、「本体工事費の借金すら返済のメドが立っていない。神戸空港の建設によって、市の財政はメチャクチャニなるはずだ」と断言しました。

(2)危険な空港になる
 次は、安全性です。すぐ近くに伊丹空港と関西空港があるため、神戸空港ができれば、狭い地域で飛行機が錯綜(さくそう)することになります。六甲と生駒の山にかこまれた狭い空域で、関西空港と発着ルートが重なる危険性もあります。管制官やパイロットでつくる航空安全会議も、安全性に強い懸念を表明しているほどです。
 さらに、空港予定地の地底には活断層があることが判明しています。また、船舶航行禁止区域が新たにできることから、神戸港に出入りする船の利用に大きな影響を与えます。

(3)大阪湾の海洋環境を破壊する
 大阪湾は水質が悪いといわれていますが、この10年間にかぎっていえば、いろいろな努力がされて、改善に向かっています。しかし、大規模な埋め立てラッシュは、そうした努力を無にするものです。
 とりわけ神戸空港は、大坂湾の潮流を変化させることが確実で、湾の環境に大きなダメージをあたえます。じっさいに、「市民の会」が4年にわたっておこなった海洋環境調査では、空港の護岸建設によって、大阪湾の潮流に悪影響がおよび、空港島東側の大阪湾奥部で深刻な海洋環境の破壊が起こっていることが判明しました。

 このように、神戸空港はさまざまな問題をかかえています。けっしてつくってはいけない空港なのです。ですから、「市民の会」は、工事をただちに中止すべきと主張しています。また、今ならわずかの費用で護岸を撤去して、もとの海に戻すことが可能とも言っています。


 ◆苦戦を強いられている神戸空港反対運動

 交流会では、神戸空港反対運動の苦戦が話題になりました。
 空港建設の是非を問う住民投票実現を求める署名運動では、有権者の3分の1にあたる35万人が署名してくれました。この運動は大きく盛り上がりました。しかし、その後、市議会議員選挙で反対派候補が乱立したことや、工事がはじまったことなどによって、市民の間では“あきらめムード”が強まっているそうです。
 「神戸空港工事の中止を求める市民の会」がおこなったアンケートでは、6割の人が反対しています。しかし、なかなか運動にはむすびつきません。市議会では、反対派議員が減っています。  その理由ですが、ひとつは、空港建設をめぐる巨大な利権です。この利権があるため、自民党や公明党はもちろんのこと、民主党も建設推進です。そして、労働組合の連合や、地元選出の土井たか子・元社民党党首も積極推進です。
 一方、共産党は、かつては建設に賛成していましたが、いまは反対に変わりました。新社会党も、一部の議員が空港建設に反対しているそうです。
 他方で、神戸に本拠をおく広域暴力団も建設推進で動いています。そうです。こうなると、政治家や財界人、有名人などは、表立って反対の立場を貫けなくなるそうです。
 こうしたことから、現在は、神戸空港工事の中止を求めて運動しているのは「市民の会」などわずかな勢力になってしまい、苦戦を強いられているとのことです。


 ◆埋め立て開発にからむ暴力団

 暴力団が空港建設推進にからんでいるという話を聞き、私はベンジャミン・フルフォード氏の警鐘を思い浮かべました。
 フルフォード氏は、米経済誌『フォーブス』のアジア太平洋支局長を務めながら、日本でジャーナリスト活動をつづけています。氏は、「政・官・業・ヤクザ」の支配がますます強まっているとし、こんなふうに述べています。
     「いまの日本の大不況の背後には、ヤクザがいる。このヤクザと政治家、官僚、ゾンビ企業群がグルになって、優良企業と日本の国民が蓄えた富を巻き上げているのだ。彼らは日本経済に寄生する寄生虫である。このことを、これまで誰もハッキリと指摘しなかったのは、本当に不思議である。日本のメディア、特にテレビや大新聞は、このことにほとんどふれない」(『ヤクザ・リセッション──さらに失われる10年』光文社)
     「『政・官・業・ヤクザ』の支配はますます強まり、日本の破産はもう目前に迫っている。つまり、日本がアルゼンチンのようにデフォールト(国家破産)し、私が最初の著書『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日』が、現実になってしまう日がつづいている」(『まんが八百長経済大国の最期』光文社」)
 フルフォード氏は、「政・官・業・ヤクザ」の癒着の象徴として、関西空港の工事をあげています。以下は、『まんが八百長経済大国の最期』(前出)の記述です。
     「1994年、大阪近郊にオープンした関西国際空港は、東京・ワシントン間をつなぐ主要路線であり、日本とアメリカの通商交渉で計画されたが、アメリカの業者を排斥して140億ドルの事業規模で建設された。そして、日本最大のヤクザ組織である山口組に、その分け前が流れていった。山口組の宅見勝組長は、それを独り占めしたために殺されたのだと、消息通は語っている」
     「日本弁護士連合会の会員であり業界通でもある山田均は、『公共事業プロジェクトの30%から50%がヤクザに関係しており、建設費の2%から5%の金が、ヤクザへの支払い費用となっている』と言う。1991年以来、国の予算からヤクザに支払われた金は、210億ドルから880億ドルにもなる。賄賂(わいろ)が含まれるために、公共事業費は一般の事業費の20%以上も割高になっている」
     「関西空港ばかりではない。関西は『政・官・業・ヤクザ』が、その本領をいかんなく発揮したため、次々に無用の公共事業が行われた。赤字を瀬戸内海に垂れ流している3つもある巨大ブリッジ、大阪湾のベイエリアに建設された誰も使わない世界貿易センター、太平洋トレードセンターなど、数え上げればきりがない。こうした赤字事業で不良債権がヤマのように築かれたおかげで、日本第2の経済エリアはいまでは見る影もなく疲弊し、大阪を基盤とした金融機関はほとんどがボロボロになった」


 ◆ヤクザ・ゼネコン・政治家・官僚は潤ったが、一般国民は大損

 フルフォード氏は、ある銀行のトップが関西空港について次のように述べたと記しています。
     「関西空港をどういうふうにつくったかと言うと、まず、自民党の政治家が和歌山とか淡路島の山奥の土地を二束三文で買う。そこから埋立て用の土を取るわけだが、(中略)まず土を取ることに対してお金を払わなければならない。それが借金として来るわけだね。それから今度は土を運ぶわけだが、ダンプカーで運ぶのは山口組の人間と決まっているんです。これに全部キックバックがある。政治家へね。社会党も民主党も入っている。それからまた船で運ぶ。その船もお金が入る。それも全部キックバック。そして、建設業者は談合で決め、これもキックバックがある。(中略)山口組やゼネコンは潤った。政治家も潤った。自治体の役人も潤った。しかし、なにも知らない一般国民は大損をしたというわけですよ」
 よく知られているように、関西空港の経営は大赤字です。同空港はまた、地盤沈下が予測以上に激しくて、「将来は使いものにならないのでは」とも言われています。それでも2期工事が強行されています。そのウラには、「政・官・業・ヤクザ」癒着の強い力があります。
 神戸空港の場合も事情はまったく同じです。ヤクザが工事にかかわっていたり、民主党や社民党なども利権に深くかかわっているため、反対運動がなかなか盛り上がらないとのことです。


 ◆神戸は「翼賛的な街」

 ちなみに、田中康夫・長野県知事はかつて、神戸空港建設の是非を住民投票で問おうとする全体の会(「神戸空港・住民投票の会」)の代表世話人を務めました。その田中氏は、浅田彰氏との共著『憂国呆談』(幻冬舎)で、神戸市についてこんなことを述べています。
     「株式会社神戸という土建屋体質があり、他方で組合も含んだ総与党体制という馴れ合いがある。ちょっと前までは共産党でさえ与党だったんだから」
     「民主党候補の本岡昭次という兵庫県教祖出身の人物は、当選第一声で、『100万人都市には空港が必要だ』と言っている」
     「NPOやNGOのような『市民派』の人たちがこの問題で動かなかったのも、県や市から金を貰っているからなんだよ」
     「ホントに暗黒の街なんだよ」
     「もう、どうしようもなく閉鎖的で翼賛的な街なんだよ、神戸って。ケネディが暗殺された頃のダラスと一緒」
 今回の交流会と見学会に参加し、こうした田中康夫氏の言葉が実感できました。


 ◆大阪湾の漁協は埋め立てでメシを食っている

 讃岐田訓氏(元神戸大学教授)の講演のあと、参加者から「漁協や漁師は埋め立てに反対しないのですか」という質問がでました。讃岐田さんはこう答えました。
     「大阪湾の漁協は埋め立てでメシを食っている。いまは多額の漁業補償金をもらうことが目的になっているので、埋め立てには反対しない」
 これについては、田中康夫氏(長野県知事)と浅田彰氏も『週刊ダイヤモンド』2005年2月号の「連載第29回『続・憂国呆談』番外編Webスペシャル」で次のように述べています。
     「関空って、一期工事でも、いまの二期工事でも、数百億円の漁業補償を出してるの。ところが、浅瀬がたくさんできたから、実は魚が増えちゃって漁獲高が上がってるらしい(笑)」(浅田彰)
     「漁協の皆さんって、こうした不労所得が多いよね。中部国際空港で愛知県のみならず三重県側も補償成金。淡路島の皆さんも神戸空港と関西空港で2倍美味しいグリコ状態」(田中康夫)
 こうしたことは、東京湾三番瀬の漁協も同じです。三番瀬は東京湾奥部に残る貴重な干潟・浅瀬です。たくさんの生き物が生息しており、生物多様性の宝庫となっています。東京湾の水質浄化にも多大な貢献をしています。また、魚類の産卵場や稚魚の成育場所であり、大切な漁業資源の場です。  しかし、船橋市漁協も、市川市の行徳・南行徳両漁協も、三番瀬の埋め立てには賛成の立場をとってきました。これらの漁協は、三番瀬に通す形で計画されている第二湾岸道(第二東京湾岸道路)についても賛成の姿勢です。三番瀬円卓会議では、漁協の代表委員が、「第二湾岸道は必要な道路なのでぜひ建設すべき」と主張しました。


 ◆魚の宝庫だった大阪湾は漁獲高が激減

 大阪湾は、関西国際空港などの埋め立て工事が進んだことによって環境が悪化し、漁業にも大きな影響がでました。魚の宝庫だった大阪湾は漁獲高が激減しました。
『中国新聞』(1997年9月10日)の記事「漁求めゼロから出発/関空の港」は、大阪府泉佐野市で漁業を営む合田幸雄さん(66歳)一家についてこう記しています。
     「チヌの海」といわれた大阪湾は魚の宝庫で、伊吹の比ではなかった。「伊吹の大漁はここでなら不漁。漁のスケールが違うんですわ」。合田さんら伊吹組は、恵まれた漁場で必死に漁をした。
     次第に頭角を現し、自前の船を持ち地元漁師も一目置く存在になった。泉佐野の漁協組合員86人のうち、伊吹島出身者は28人。「よう働く」という評判は定着し、その心意気は息子たちにも受け継がれる。
     魚の宝庫だった大阪湾だが、泉佐野市の沖合に出現した関西空港で様相は一変した。
     1987(昭和62)年から8年がかりの巨大プロジェクトは、漁業と暮らしにさまざまな影響を及ぼした。巨大な人工島は大阪湾全体の潮流を変え、漁獲も次第に細くなりつつある。
     「チューインガム状のヘドロの塊で網が上がらん。小さな黄色い貝がわき、ええ漁場が少のうなった」と合田さん親子は嘆く。
     空港建設の漁業補償も暮らしを変えた。補償金で、多くの漁師が2隻目の船を持ち、家を新築した。新造船は空港工事の通船や警戒船の仕事でフル回転した。
     伊吹を出てゼロからスタートした合田さんも補償を手にした。しかし、ここ数年の漁の落ち込みに、複雑な思いを隠せない。「大企業の部長並みの退職金ほどの補償をもろうた。だが、魚の宝庫だったかつての大阪湾がずっといい」と言い切る。
     親子4人で働き、開港前に年間3000万円はあった漁獲が3分の2に減った。補償金ほどの額を漁で稼ぐのは訳ないというのだ。息子2人が後を継ぐ合田さん一家にとってはなおさらである。
     「そりゃあ漁が存分できる海の方がええぞ」。ひっきりなしに離着陸するジェット機を見上げながら、つぶやいた。
 以上です。ちなみに、関西国際空港の埋め立て工事による漁業補償費は、1期が250億円、2期が200億円(大阪府漁連分のみ)と聞いています。
 いまも大規模な埋め立てがおこなわれている大阪湾の実態を、ぜひ多くの方にみてほしいと思います。

(2004年11月)



埋め立てラッシュの大阪湾












建設中の神戸空港



埋め立て用の土砂を運ぶ運搬船



確認しただけで、数十隻の土砂運搬船が浮かんでいた


大阪市が舞洲(まいしま)の埋め立て地につくった超ハデなゴミ焼却場。浅田彰氏は、前出の対談でこう述べている。「オリンピック誘致を目指して『舞洲』『夢洲』っていう埋め立て地までつくったら、結局オリンピックは来ないことに。舞い上がったけど夢に終わったってわけ(笑)。フンデルトヴァッサーの巨大な御伽の城みたいなゴミ焼却場なんかも、その荒漠とした埋立地に建ってるんだよね。まさにシュールレアリスティックな風景だよ」。








海水はたいへん濁っている。直径30センチの円盤を海に沈めて透明度を測ったところ、2.5メートルの深さまでしか見えなかった








透明度を測った円盤








讃岐田訓さんの説明に聞き入る参加者















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