水・エネルギー・食料の自給をめざす

〜群馬県上野村から見えるもの〜

田原廣美






 友人の深沢君と私は(2016年)6月16日の早朝、埼玉県鶴ヶ島市から群馬県上野村へ向けて出発した。着いたのは「上野村ふれあい館」である。

 まずコーヒーを飲んで、近くの木工作品などを見てまわった。12時過ぎ、事前に連絡をしておいた産業情報センターの三枝(みえだ)さんに会う。まず、村興(おこ)しの象徴でもある村営のそば屋で昼食。上野村のガイド料は一人3000円だが、そば代金も含まれている。


人口1300人のうち260人が移住者

 昼食後、再びセンターに戻り、三枝さんから上野村の説明を受けた。上野村の人口は約1300人、そのうち何と260人が移住者だという。標高1000メートルを超える山々に囲まれ、村の95%が森林だ。神流川(かんながわ)の源流は平成の名水百選に入っている。不二洞という大きな鍾乳洞もある。しかし、村には仕事がない。仕事がなければ生活できない。そこで始めたのが、猪豚・十石みそ・しいたけなどの特産品の開発と、森林を生かした木質ペレットの普及だった。


木質ペレット燃料製造工場とペレット発電所

 今回、三枝さんは村興しの中心ともいうべき「木質ペレット工場」と「ペレット発電所」(木質ペレットを使ったバイオマス発電所)を案内してくれた。

 ワゴンに同乗し山道をじぐざぐと上がっていくと、積み上げられた木材と一群の建物が見えた。「上野村木質ペレット燃料製造工場」だ。総工費2.7億円のうち1.4億円が県の補助金だ。村内の木材約5000立方メートルを1トン4000円で買い取り、年間1600トンのペレットを生産している。このうち900トンが発電に、700トンが温泉施設やペレットストーブに使われている。上野村では林業30人の雇用を生んでいる。

 続いて、2015年度から始めたという「ペレット発電所」を案内してもらった。発電機は車のエンジンを大型化したようなものだという。木質ペレットをガス化した後、ディーゼルエンジンを介して発電する。発電量は180キロワットで、約45軒分の電力に相当する。

 発電量は決して多くない。しかし重要なのは、発電時に発生する熱を「キノコセンター」の冷房に使っていることだ。菌床の製造から販売まで一体型の「キノコセンタ−」としては、東日本で最大だ。そして、何と60人の雇用を生んでいる。

 ペレット工場・バイオマス発電・キノコセンターの一体化を考えたのは、三枝さんと村長さん。そこには上野村のこんな理念があった。
     「上野村を持続可能な地域社会にしたい。そのために、水・エネルギー・食料を村内で自給する。そして、村内で雇用を生み出す」
 発電所のシャッターを下ろそうとして、三枝さんはふと手を止めた。そして、再び中に入った。ややあって外に出てきたのは、先ほど入ってきたオニヤンマだった。自然と人の共存。上野村の魅力を改めて感じた。


地域経済自立の先駆的な取り組み

 投資によるカジノ的なグローバル経済から、地に足の着いたローカル経済にしない限り、未来はない。私は日本経済を健全にするためには、地域経済の自立が欠かせないと思う。その意味で、この上野村の取り組みは先駆的ですばらしい。特に、高給は出せなくても、地域で雇用を生み出していることが重要だ。仕事があれば生活できるからだ。

 しかし、課題もある。村の年間予算29億円の中、東京電力神流川発電所(水力発電所)の固定資産税が19億円、これが年々減少する。したがって、これから自前の収入をさらに増やし、財政基盤を強化していくことも必要だろう。


地方経済を根底から壊す原発事故

 最後に、原発事故がいかに大きな被害を及ぼすかということを、改めて思い知らされた。福島県の飯舘村では、飯舘牛やタラの芽などのブランド品を創り上げ、村興しが軌道に乗ったところを原発事故が襲った。そして、村人6000人が営々と続けてきた努力は無にされた。飯舘村は今、帰村する人しない人とで真っ二つに分断されている。

 福島原発から遠く離れた上野村でも、キノコの原木が放射能で汚染され、他県から取り寄せているという。原発事故は、地方経済の自立の取り組みを、その根底から壊す。
(2016年8月)











上野村木質ペレット燃料製造工場



ペレット発電所









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